『陽が落ちる』切腹を命じられた武士の最期に封建社会の不条理を味わう

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『陽が落ちる』4月4日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次公開

 昨年の時代劇映画の話題作といえば、幕末の侍が現代の撮影所に迷い込む「侍タイムスリッパー」。よくできたコメディーとして評判を呼びヒットとなったが、今年の時代劇ではこの「陽が落ちる」が話題をさらうかもしれない。「侍タイムスリッパー」と正反対のシリアスなドラマ。とにかく重厚なのだ。

 監督は「ウスケボーイズ」「シグナチャー 日本を世界の銘醸地に」などの柿崎ゆうじ。本作でロンドン国際映画祭2025の外国語部門最優秀監督賞、エディンバラ国際映画祭2025の外国語部門最優秀監督賞と外国語部門最優秀作品賞に輝いた。

 文政12(1829)年の江戸。武家の妻・良乃(竹島由夏)は蟄居(謹慎)を命じられた直参旗本の夫・古田久蔵(出合正幸)と、幼い息子・駒之助とともに静かに暮らしていた。久蔵が蟄居になったのは、江戸城在番の折に将軍の弓の弦を切ってしまったからだった。

 ある日、旧友の江藤伝兵衛(前川泰之)が屋敷を訪ね、門の向こうで一首の歌を吟ずる。この歌が良乃の心の平穏を切り裂いた。

「夏の世の 夢路儚き もののふの 晴れて行方の 西の雲の端」

 それは明日、久蔵が切腹を命じられるという知らせだった。

 夫はまもなく命を奪われる。妻として、残された時間に何ができるのか。久蔵の誇りを守り、一人息子・駒之助の未来をつなぐため、良乃は静かに覚悟を決めるのだった……。

 物語は久蔵が蟄居の中、妻子と穏やかに過ごしている場面に始まり、伝兵衛が切腹の決定を知る経緯を経て、久蔵の最期の2日間を淡々と描写していく。時代劇だが、ちゃんばら場面はない。わずか2日間の出来事を133分の長尺にまとめたという点で画期的な試みと評価したい。屋敷内を主舞台とした密室劇ながら筆者はまったく飽きることなく、最後まで身を乗り出してスクリーンを見つめた。

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