「木の上の軍隊」敗戦後も山中に潜伏した兵士に日本人の愚かさを見る
人間とは浅はかであざとい生き物なのだ
物語に登場するのは主に2人の男だ。1人は陸軍少尉の山下、もう1人は新米兵士の安慶名。2人のキャラが対照的だ。山下は作業中の働きが悪い兵士を殴りつける鬼のような将校。一方、安慶名は真面目で心優しい若者だ。皮肉にもこの2人が共同生活を続ける。
山下は当時の日本軍兵士の典型と言えるだろう。戦い続けることを自分の使命と考え、性格は豪直。米兵が残した缶詰を前に、空腹で死にそうにもかかわらず、「敵の食べ物が食えるか」と手をつけようとしない。対して安慶名は考え方が柔軟なため敵の食料で生き延びようと考える。
ここに実際の戦争で「決戦だ」「玉砕だ」と吠えまくった職業軍人と、戦争に巻き込まれ犠牲になった兵士の対比が込められている。ところが中盤で物語は「転」を迎える。虚勢を張っていた山下もひと皮剥けば弱い人間というわけだ。
山下の姿は当時の日本人の典型だ。天皇支配下の軍国日本で「鬼畜米英」「いざ来いニミッツ、マッカーサー 出てくりや地獄へさか落とし」と叫びながら、1945年8月を境に一転して米国主導の民主主義を信奉するようになった日本国民がダブって見える。人間とは浅はかであざとい生き物だ。いとも簡単におのれを変態させて生存をはかろうとする。
そういえば坂口安吾は「堕落論」にこう書いていた。
「大君のへにこそ死なめかへりみはせじ。若者達は花と散ったが、同じ彼等が生き残って闇屋となる」
本作で戦争の恐ろしさと日本人の愚かさを確認してもらいたい。(配給:ハピネットファントム・スタジオ)
(文=森田健司)