「ダブルインパクト」は“成功”だったのか? 現役芸人が感じる優れた点と3つの不満

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コクハク

 漫才とコントの両方で競う新たな賞レース『ダブルインパクト〜漫才&コント 二刀流No.1決定戦〜』(日本テレビ系)が7月21日に開催された。第1回大会を制したのは吉本興業所属のニッポンの社長だった。初回を終えて、ダブルインパクトは果たして成功といえるのだろうか。

 今回は、かつて年間100本以上のライブに出演し、自身もライブ主催者の経験もあるという現役の芸人・帽子田が、『ダブルインパクト』の優れた点と改善点について考察する。

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漫才とコントの両方で競う大会に賛否

 賞レース『ダブルインパクト』の第1回が無事終了した。漫才とコントの両方で競うという新たな切り口は、芸人やお笑いファンからは開催発表直後から賛否両論だった。

 今回決勝に進んだのはロングコートダディ、スタミナパン、セルライトスパななまがり、ニッポンの社長、かもめんたる、コットンの7組。ネタには定評がある7組の違う性質のネタを見れたことで、ネタ番組としては非常に満足感が高かったように思う。

 特に漫才のイメージがないコンビのコントや、その逆を見れたりするのも新鮮味があって、最後まで飽きずに見られた。芸人界隈でも賛否両論だったものが、「賛」寄りになった気がする。

 また、かまいたちさんのMCも抜群によかったのも成功の一因だ。いまだに劇場に立つかまいたちさんだからこそ、全コンビへのリスペクトも感じたし、若手のいじり方なども熟知しているのが見て取れた。山内さんのボケで笑いを取る部分も多くて、より大会が盛り上がったし、賞レースのMCとして最高の立ち振る舞いをしていた。

「かまいたちのMC力」と実力派が揃う審査員



 ネット上でも「かまいたちのMC力」を高評価する声も多かった。特に濱家さんがネタで爆笑したりしていて、笑いやすくなっていたのもある。橋本環奈のそつない進行と可愛らしさも大会に花を添えていた。

 あとは審査員の顔ぶれも過不足なくて素晴らしい。今回の審査員は千原ジュニア・中川家剛・後藤輝基・塙宣之・田中卓志など5人。全員現役世代で、なおかつ出場芸人が憧れているメンバーを揃えてくれており、文句なしの顔ぶれだった。特にジュニアさんや剛さんに評価されるのは嬉しいだろう。

 だからこそ気になったのが、「採点基準の分かりにくさ」だ。

採点基準はどこにあった?

 芸人たちは「漫才とコントという性質の違うネタをどうやって採点するのか」という点に注目していた。例えば『M-1』(テレビ朝日系)だとボケ数やフォーマットの面白さ、『キングオブコント』(TBS系)はキャラクターや展開の多さなどが一定の採点基準としてある。

 ただ『ダブルインパクト』は客観的に見て、採点基準があまり分からなかった。



 第1回だし審査員の人もどう判断していいか分かりかねていたのだろうが、どうしても客席のウケ量に左右されていたような気がする。もちろんウケは大事なのだが、プロの芸人から見る技術力や台本の良さなどの観点の方を重視してほしかった。

 また、審査員の点数幅が狭いのも少し残念だった。大体85~95点ほどの点数幅だったので、点差がつかずに面白みに欠けてしまっていた。僅差での戦いも面白いのだが、大勝・大敗するコンビが見たいのも事実だ。みんな似たり寄ったりな点数では、逆にハラハラしなくなってしまう。

『ytv漫才新人賞決定戦』(読売テレビ系)での粗品のような審査員がいたら、また点数にパンチが効いて面白くなったのかもしれない。

やや予想通りすぎる展開

 点数や結果で言えば、「予想通りすぎる」という感じもした。芸人界では開催が発表されたときから「ロングコートダディかニッポンの社長が優勝するだろう」と予想されていた。なぜなら高クオリティで2本ネタをできるコンビというのが、芸人の中でも限られているからだ。

 芸人は基本漫才かコントか、どちらかを極める方針を取っており、専門外の大会に出るときは付け焼刃だったりする。しかもキングオブコントの予選とも日程が被っているため、そもそも出ない芸人も多かった。

 だからこそ、通常時から両ネタを高クオリティでできる、ロングコートダディとニッ社の二組を最有力候補だと皆が思っていて、その通りだったから拍子抜けしてしまったのだ。

特徴であるはずの異種格闘技感

『M-1』や『キングオブコント』などでは最有力候補が優勝することは意外にもないので、うっすらと大逆転やダークホースを期待していた分、勝手に残念に思ってしまった。

 勝敗が予想しやすいと、賞レースとしては面白みに欠けるし、緊迫感も薄れる。M-1がここまで一大コンテンツになったのは、視聴者にも感じる本気さと、見ているだけで腹が痛くなるようなピリピリ感のおかげだ。ダブルインパクトには大会の性質上、それが感じられなかった。

 とはいえ、あの二組の決勝争いには何の文句もつけようもない。圧倒的に面白かったのは事実だ。

 もう1点ケチをつけさせてもらうのであれば、1本目がほぼコントだったのも気になった。スタミナパン以外は1本目にコントを選んだため、2本目がほぼ漫才だった。ダブルインパクトの一番の特徴である異種格闘技感がなく、物足りなく感じた。



 僕はダブルインパクトの予選を見に行ったのだが、音響や照明、舞台装置を使える分、コントの方が漫才より「インパクト」があると感じた。漫才とコントを並べてしまうと、「コントの方が派手なので有利になる」とほぼ全組が感じ取ったのだろうし、実際正解だと思う。

 ただイチ視聴者としては「漫才とコント、どっちが来る!?」とハラハラしたいし、漫才とコントが交互に殴り合うさまも見たい。来年以降はもうちょっとバラけるとより面白いだろう。

満足度は高かった!



 たくさん文句をつけてしまったが、冒頭でも言った通りネタ番組としてはとても面白かったしSNSを見る限り満足度も高そうだ。ダブルインパクトは来年以降も続いて定着していく可能性は大いにある。

 課題としては出演者の多様化とピリピリ感だと思う。だが出場層を一気に変えるのは難しい。なので来年以降は「ピリピリ感」の演出に期待したい。

(帽子田/芸人、ライター)

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