著者のコラム一覧
碓井広義メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶應義塾大学助教授などを経て2020年3月まで上智大学文学部新聞学科教授。専門はメディア文化論。著書に「倉本聰の言葉―ドラマの中の名言」、倉本聰との共著「脚本力」ほか。

山本耕史「あの試合~3.11 再生のスタジアム~」は震災から人々が立ち上がる「再生のプロセス」を提示

公開日: 更新日:

 3月6日、ドキュメンタリードラマあの試合~3.11 再生のスタジアム~」(NHK)が放送された。2011年に発生した「東日本大震災」をめぐる特番である。

 物語の中心に置かれたのは、地震発生から43日後に行われたJリーグ再開初戦、川崎フロンターレ対ベガルタ仙台戦だ。被災地を足場とするチームの劇的な逆転勝利だった。しかし、番組が描くのは結果の美談ではない。当事者たちの揺れる心だ。

 軸となる人物はベガルタの手倉森誠監督だ。クラブの存続危機。厳しい現実を目の当たりにして「サッカーをしていいのか」という迷い。それは選手やスタッフも同じ。ドキュメンタリー部分では事実経緯や証言を丁寧に積み重ねていく。

 そしてドラマ部分では、山本耕史が手倉森と双子の弟・浩(元サッカー選手で指導者)の2役を演じた。兄弟の対話によって、複雑な心情や葛藤が見る側にも伝わってきた。被災した人たちの「希望の光」になろうという決意も、「言葉に出せば、願いじゃなく約束になる」と手倉森は言う。

 震災から15年。近年は記憶の風化が語られ、特番も形式化していく傾向がある。危ういのは、震災を扱うこと自体が目的となる「形式疲労」だ。

 そんな中で、この番組はサッカーの再開という象徴的な出来事を通じて、人々が徐々に立ち上がる「再生のプロセス」を見事に提示していた。

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