俳優・永瀬正敏「俳優は作品を通して被災者に寄り添う」東日本大震災がテーマの映画『いきもののきろく』が11年ぶり全国公開

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永瀬正敏(俳優)

 山田洋次やジム・ジャームッシュら、そうそうたる監督のオファーを受け、国際派俳優として活躍。第28回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞した「隠し剣 鬼の爪」など100本以上の作品に出演してきた。7日からテアトル新宿を皮切りに全国公開される「いきもののきろく」(井上淳一監督)は東日本大震災をテーマにした作品で原案も担当。11年前に製作されながらわずか2回しか上映される機会がなかった幻の作品だ。震災と映画について話を聞いた。

  ◇  ◇  ◇

 ──11年前に撮った映画が今になって公開されたのはなぜでしょう?

 この映画は2014年に名古屋のシネマスコーレという、若松孝二監督(12年没)が立ち上げたミニシアターで1度だけ上映された作品で、去年、若松監督の追悼として新宿でこれまた1回だけ上映された作品なんです。そこで「また見たい」「今回は見れなかったけど、ぜひ見たい」との声が多く届いたこと。また、井上監督がご尽力されたのが全国公開につながりました。昨年公開された「箱男」も実は、27年前にロケ先のドイツに行ってクランクインする前日に中止になった作品でして、ここにきて過去に出合った作品が日の目を見るということはうれしいですね。ただ、今まで自分が出た過去の作品についてしゃべったりするのは、なんとなく“こそばゆい”気がしていたんです。でも、昔と違って、今は配信があったり、映画の公開の方法もさまざまな形ができてきて、当時はまだ生まれていなかった人たちにも見てもらえる機会が増えました。海外で日本の70~80年代のJポップが人気を集めているという現象もあります。「箱男」もそうですが、若い観客に見てもらえるのはとてもうれしいです。

 ──最初は監督を要請されたとのことですが。

 坂口安吾原作の「戦争と一人の女」(13年)という井上監督の映画に出演した際に、シネマスコーレに舞台挨拶に行ったら、支配人の木全純治さんから「中川運河を舞台にした作品を4人の監督で映画化する企画があるので、その1本を監督しませんか」と言われたんです。中川運河は、名古屋港と市内を結ぶ歴史ある運河で、小栗康平監督の名作「泥の河」(1981年)や森崎東監督の「生きてるうちが花なのよ 死んだらそれまでよ党宣言」(85年)のロケ地として有名な場所なんです。でも、その申し出は即答でお断りしました。

 ──それはなぜ?

 自分は監督向きじゃないと思っていますから。デビューの時から散々監督の苦労を見てきているし、そうそう簡単にできるものじゃないと分かっています。ミュージックビデオみたいな短いものは撮ったことがあるけど、劇場用の映画はハードルが高い。監督の才能はまったくないです。良い作品には出たい欲求の方が勝ちますし、自分で芝居しながら監督するというのはかなり難しい。この作品を、この監督と、この俳優で……というプロデューサー的なものには惹かれます。しかし、木全さんに案内された中川運河で、今回の映画の舞台になる鉄くず工場に出合ってしまうんです。無機質な鉄の残骸に、なぜか「生命力」を感じて、持っていたカメラでバシャバシャ撮っているうちに創作意欲がふつふつと湧き上がってきまして、東京に帰ってから簡単なシノプシス(あらすじ)を書きました。具体的な表現はまだなかったですが、鉄くず工場に東日本大震災後のイメージを重ね合わせたもので、僕自身、震災の後、東北を回ったことがあって。その時に出会った人たちや風景が頭にあって、一気に書き上げました。それを井上監督がより的確に、原発事故後の無人となった世界に取り残された一組の男女の話、いってみればアダムとイブの話にしてくれたんです。

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