人生の滋養に!シニアが主人公の文庫本特集
「孤老たちの沈黙」福澤徹三著
酸いも甘いも噛み分けたシニアこそ、滋養たっぷりの人生のネタを持っている。シニアが登場する本には、そんなこの世の常を知った年代ならではの、自由とほろ苦さが詰まっていそうだ。若い頃にはピンとこなかったアレコレを、本を通して見直してみてはいかが。
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「孤老たちの沈黙」福澤徹三著
産業機械メーカーの経理部で長年働いてきた岩橋正幸は、定年を迎えた後に嘱託社員として働き、65歳の誕生日を機に退職した。
解放感もあって、駅前の飲み屋で知り合った高津戸から紹介されたスナックに足を向けたところ、そこで高津戸と再会し、海外移住の計画を聞かされる。一緒に行かないかと誘われ、一度は断ったものの、妻には別居され、ご近所では少年の良くない素行を見かけて注意をしたことから老害だと騒がれる羽目になったことをきっかけに、高津戸の誘いに乗ることにしたのだが……。(「ノーマネーノーライフ」)
ホラーや怪談、警察小説など幅広い分野で活躍する著者による、追い詰められた中高年を主人公にした7つの物語。さまざまな事情と孤独を抱えたシニアを待ち受ける衝撃の結末に震撼させられる。
(光文社 836円)
「終活中毒」秋吉理香子著
「終活中毒」秋吉理香子著
人生の終着点が見えてきたとき、人は残り時間をどう生きるかについて考え始める。本書は、そんな終活にいそしむ人々を描いた連作短編集だ。
収録されているのは、余命宣告を受けた資産家の女性と結婚して遺産をもらうことを本業にしている男が、なかなか死なない妻にやきもきさせられる「SDGsな終活」、妻の三周忌を機に疎遠になっていた息子が実家に帰ってくる「最後の終活」、昔はソコソコ売れていたのに今や過去の人になってしまった小説家が登場する「小説家の終活」、余命数カ月のお笑い芸人の最後の日々を語る「お笑いの死神」の4編。
悔いのないよう残りの日々を生きようとした人々の、思いがけない展開に仰天すること必至。よくある終活話とは一味違う予想外の結末に、泣き笑いさせられそう。
(実業之日本社 858円)
「シニアになって、旅の空」下川裕治著
「シニアになって、旅の空」下川裕治著
若い頃からバックパッカー風の節約旅を続けてきた著者が、シニアになった今、実際にやってみた国内ひとり旅の記録をつづった旅行記。
著者は、シニア向け旅行ツアーのように金をかけたからといって充実感が味わえるとは限らず、むしろ旅の内容を左右するのは、資金より旅への想像力だと主張する。本書では、青春18きっぷで只見線に乗って大雪で立ち往生したり、シルバーパスを活用して清水徳川家の重臣・村尾嘉陵の旅をたどってみたり、小樽から北前船の航路をたどるフェリー旅をしたりと、決して一筋縄ではいかない独自の旅が展開する。
計画段階から予想外の事態に遭遇した時の切り抜け方、全費用明細まで詳細に解説。何にも縛られないシニアならではの旅の醍醐味がたっぷり詰まっていて、思わずひとり旅に出たくなる。
(朝日新聞出版 968円)
「アルツ村」南杏子著
「アルツ村」南杏子著
夫のDVから逃れるため、娘のリサをつれて車で札幌の自宅を飛び出した三宅明日香は、途中あおり運転の車に追いかけられ、自損事故を起こした。車を捨てて逃げる途中で意識を失い、気づけば見知らぬ村にいた。
かくまってくれたのは、修造とハツという老夫婦。ふたりは突然現れた明日香を孫の夏美だと思い込み、近隣の住民も「夏美」となった明日香とリサをすんなり受け入れたのだが、会話をしているうちに違和感があることに気づく。どうやらこの村の住人はみな認知症を患っているらしい。夫から逃れたい一心で、明日香は夏美に成りすまし、ふたりの介護をしながら過ごすのだが……。
内科医として病院に勤務する現役医師による、認知症大国&介護地獄の日本のリアルを描いた問題作。思いがけない驚愕の結末に息をのむ。
(講談社 979円)