「タコ・イカが見ている世界」吉田真明・滋野修一 著/創元社(選者:中川淳一郎)

公開日: 更新日:

人間並みともいえる知性に仰天

「タコ・イカが見ている世界」吉田真明・滋野修一 著/創元社

 この4年間、趣味はイカ釣りとタコ取りになった。毎度、「なんかこいつら頭いいんだよな」と思う。2010年、サッカーW杯南アフリカ大会で、ドイツ代表など8試合の結果をすべて的中させたタコの「パウル君」がその筆頭だろう。本当にパウル君が予知能力があるかはさておき、本書でも記されているように、タコは水槽の外で瓶の蓋を開ける人間の姿を見て自ら瓶を開けられるなど、知性は高いようだ。

 著者の2人はタコとイカという「頭足類」の研究者。これまでの豊富な研究結果を余すことなく紹介している。ホタルイカが発光する理由は、むしろ捕食されないためなのだという。逆説的だが、発光しない方が食われやすくなってしまうのだとか。

 さて、イカとタコは頭がいいという実体験。イカ釣り船でイカを釣った場合、新鮮な海水が常に流れ込むプラスチック製の箱を足元に置き、その中にいったん保管する。こうすることによってイカを新鮮に保てる。すると、イカはこの箱から逃げ出そうとするのだ。船には船内に水がたまらないように箱から出た海水を海に戻す穴があるが、この穴を目指すのだ。そのため、人間は釣りざおの先を見続けるほか、足元の箱も見て脱出を防ぐ。すると、イカはキレるのか、的確な角度で私の脚に向かって「漏斗」から水を噴射してくるのである。

 タコの場合は浅瀬にカニなどの餌を取りに来るところを見計らって捕まえるのだが、岩の模様に擬態して見つかりにくくするほか、捕まえても網のほんの少しの隙間からいつの間にか逃げ出している!

 本書では、タコには9の脳があることを示す。そして、その脳は体全体の重量の何%か。

〈ヒト(2.5%)、イルカ(~1%)、ヒメイカ(10%)、タコ(1~3%)、カラス(2%)〉

 さらには「マズローの欲求段階説」についても言及している。人間の欲求を段階的に表したもので、「生理的欲求↓安全の欲求↓社会的役割の欲求↓自己承認欲求↓自己実現欲求」になるが、タコは最上位の「自己実現性」を有しているというのだ。

 痛みも感じるため、昨今の研究では動物愛護の観点から麻酔的なものも用いるとのこと。日々、スーパーの鮮魚コーナーで安易に買うタコとイカだが、他の魚とは別格の知性を持つと知り、買うのを躊躇するかもしれない。イカとタコが好きな人にはオススメだ。 ★★

【連載】週末オススメ本ミシュラン

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    世良公則氏やラサール石井氏らが“古希目前”で参院選出馬のナゼ…カネと名誉よりも大きな「ある理由」

  2. 2

    国分太一が社長「TOKIO-BA」に和牛巨額詐欺事件の跡地疑惑…東京ドーム2個分で廃墟化危機

  3. 3

    浜田省吾が吉田拓郎のバックバンド時代にやらかしたシンバル転倒事件

  4. 4

    “お荷物”佐々木朗希のマイナー落ちはド軍にとっても“好都合”の理由とは?

  5. 5

    「いま本当にすごい子役」2位 小林麻央×市川団十郎白猿の愛娘・堀越麗禾“本格女優”のポテンシャル

  1. 6

    幼稚舎ではなく中等部から慶応に入った芦田愛菜の賢すぎる選択…「マルモ」で多忙だった小学生時代

  2. 7

    「徹子の部屋」「オールナイトニッポン」に出演…三笠宮家の彬子女王が皇室史を変えたワケ

  3. 8

    TOKIO解散劇のウラでリーダー城島茂の「キナ臭い話」に再注目も真相は闇の中へ…

  4. 9

    新横綱・大の里の筆頭対抗馬は“あの力士”…過去戦績は6勝2敗、幕内の土俵で唯一勝ち越し

  5. 10

    フジテレビ系「不思議体験ファイル」で7月5日大災難説“あおり過ぎ”で視聴者から苦情殺到