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井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

本のすみか(大阪・北加賀屋)「本を読まない人にも面白いと思ってもらえる」が選書基準

公開日: 更新日:

 昔は造船所があって、栄えた地だったらしい大阪・北加賀屋。今は洗濯物を干す年配女性や犬を引っ張る子どもが絵になる、小住宅がひしめく住宅街だ。2階建て長屋を再生した建物の中に「本のすみか」があった。

 玄関を入ると、段差があり、「あ、どうぞ。靴のままお上がりください」と、店長・小林晴奈さん(35)のおっとりした声が。

 ではお邪魔します。9坪に、新刊・古本合わせて2500冊。白い天井にフローリングの床。かすかに木の芳香が漂うのは、オープンして1年だから。

 さっそく目が合ったジドルー作「くじら図書館」、古賀及子著「好きな食べ物がみつからない」に「初めまして」と囁いたあと、レイモンド・マンゴー著「新版 就職しないで生きるには」を見つけ、旧友と再会したような。ましてや、拙著「絶滅危惧個人商店」も見つけたうれしさったら。

「いつもポケットに本を入れ、本と書店が好きなだけの人だったんですが、いつか本のある空間をつくりたいと思っていたら、できちゃいました(笑)」

「緩やかなつながり、いいなー」との思いが熟し実店舗を持つことに

 新卒で就職した会社の仕事に疲れたタイミングで、阿倍野区の貸し棚書店「みつばち古書部」の存在を知ったのが、そもそものきっかけ。2018年から参加し、小川洋子や中島らもなど、自身が好きな小説本を中心に並べた。「みつばち古書部」の仲間やお客との「緩やかなつながり、いいなー」との思いが熟し、実店舗を持つことに発展したそう。選書の基準は?

「普段、本を読まない人にも、面白いと思ってもらえる本です」

 たとえば、と小林さんが手に取ったのが、中前結花著「好きよ、トウモロコシ。」。SNSで話題になっていたので、読んだら「面白くてびっくり」。早くに亡くなったお母さんの思い出もつづられているとか。

「オンラインショップでの販売も含め、300冊売れました。ありがたいことに、ウチでこの本を買ったとSNSにアップしてくれるお客さんが多くて」

 来た人に「この本屋さんのことをSNSに書きたい」と思わせる雰囲気を持っているのだ。女性客がほとんどですか?

「いいえ、週1回のペースで通ってくれる60代の男性もいます」

 隣は、サンドイッチカフェとチャイ専門店。ブックカフェ的に利用できる。

◆大阪市住之江区北加賀屋2-4-2 NAGAYArt №3/地下鉄四つ橋線北加賀屋駅4番出口から徒歩5分/月・火・水・金曜午前11時~午後4時、日曜正午~午後6時、木・土曜休み(変更もあるので、SNSで確認を)

ウチのおすすめ本

「金は払う、冒険は愉快だ」川井俊夫著

 著者のプロフィルに「1976年横浜生まれ。中卒、水商売、ヒモ、放浪、アルコール依存症、ホームレス、会社員、結婚を経て、現在は関西某所で古道具店を経営」とある。

「波瀾万丈な経歴を持つ古道具屋店主による、エッセー的な私小説です。めちゃくちゃ面白い。感動しました。著者は、古道具を買い取りに行くことを『冒険』と表現。家じまいをする人からの依頼もあり、お客を『じじい』と呼ぶなど、主人公は口が悪い人ですが、すごく優しくて、周囲に頼りにされていて……。これから売っていきます」

(素粒社 1980円)

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