デリヘル給付金訴訟の弁護団長「国会で説明責任を果たさない国は裁判では逃げられない」

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平裕介氏(弁護士)

 デリバリーヘルス事業者が国を相手取った訴訟の行方に注目が集まっている。新型コロナウイルス感染症対策で支給される持続化給付金や家賃支援給付金の対象から性風俗事業者を除外したのは、法の下の平等に反し、違憲だとして、関西地方のデリヘル経営者が支給を求めているのだ。給付金をめぐり、性風俗事業者が起こした訴訟は初めて。「立憲主義と法治主義を取り戻す」と会見で語り、新たな違憲訴訟に挑む持続化給付金行政訴訟弁護団長に話を聞いた。

 ◇  ◇  ◇

 ――約296万円の給付金支給を含む約450万円の損害賠償を求める訴訟の第1回口頭弁論が4月にありました。

 持続化給付金と家賃支援給付金は99%の事業者に給付されていますが、営利目的の事業者で唯一交付されていないのが性風俗事業者とラブホテルの事業者などです。売春防止法や風俗営業法に違反しているのならともかく、性風俗事業者すべてを排除するという除外規定を設けて不給付にしました。届け出も納税もしているにもかかわらずです。

■除外規定は「法の下の平等」に反する職業差別だ

 ――国の言い分は。

 安倍総理(当時)は「業種にかかわりなく幅広く支援する」と持続化給付金の趣旨を説明しました。しかし、その後の国会審議や裁判における国の主張は、性風俗事業は本質的に不健全であり、「社会通念上、公的資金を給付することに国民の理解が得られにくい」ということになり、総理答弁を反故するものになりました。そもそも非常に抽象的な言い分であり、合理的な根拠がない。恐ろしいのは、国の主張が性風俗事業への国民の差別感情にお墨付きを与え、満足させ、放置し、さらには助長して固定化させてしまうことです。除外規定が「法の下の平等」を保障する憲法14条に反するものだと原告と代理人は考えています。国民感情や社会常識などを国が考慮できることになると、恣意的な判断が可能になってしまいますし、そのために事業者の人権が侵害されるような措置が可能になります。

 ――原告代表も国による差別を断ち切りたいと発言していました。国が主張する「国民の理解」は根拠不明で無責任ですね。

 今後の裁判でも国は国民感情という言葉を持ち出してくるだろうと考えられます。このような排除は、中枢に近い力のある一部の国会議員に経産省や中小企業庁が忖度して行った可能性もあるのではと私は見ています。そのことを包み隠すかのように、前例踏襲と言ったり、刑事事件化したケースなどを持ち出してきます。国民感情ではなく、ただの差別感情、蔑視だといえます。人権侵害に目をつぶり、不合理なことを考慮する判断は行政の裁量権の逸脱・乱用です。ただちに改善されるべきです。 

公共訴訟は国の不合理答弁を白日の下にさらす

 ――そもそもこの訴訟に関わった経緯は。

 原告代表の方から、私がウェブサイトの「美術手帖」に昨夏載せた記事を読んだということで、ご連絡をいただきました。自粛と補償はセットであるべきではないか、という論旨の記事でした。性風俗事業者はこれまで行政からいろいろと排除されてきたのですが、裁判で争った前例がありませんでした。それで一人でやるのは難しいとも考え、国相手の訴訟の経験のある弁護士らと6人で弁護団を結成しました。

 ――この裁判費用はクラウドファンディングを使い、614万円も集まりましたね。

 いろいろな研究者に意見書を書いていただきたかったし、ウェブのイベントもやりたかったのですが、費用がかかるもので。知人の弁護士が、「CALL4(コールフォー)」という公共訴訟に特化したクラウドファンディングを運営していたんです。そこで実施したら、大変ありがたいことに思いのほか大きい金額が集まりました。

 ――公共訴訟とはどういうものでしょうか。

 社会課題を司法の力、裁判を使って変えていくことを目的とする訴訟です。CALL4では原則的に訴訟資料や答弁書、準備書面も公開しています。これまで研究者は判決文だけを読んで研究するのが伝統的な判例研究のスタイルでした。訴状等の公開によって裁判経過も含め、リアルタイムで研究ができ、憲法や行政法が発展する機会にもなると考えています。

 ――訴訟を進めてきたことによって見えてきたことはありますか。

 国は国会審議では抽象論ではぐらかし、壊れたテープレコーダーのように同じ答弁を繰り返しました。しかし法廷でそれをやると敗訴することになりかねません。ですから国はより踏み込んで説明しようとしていきます。そして法廷で不合理な主張をしてしまえば、それが白日の下にさらされていくのです。これは公共訴訟を起こすメリットのひとつです。本来、国は国会で説明責任を果たすべきなのですが、それをやらないから司法の場でやらされてしまうわけです。

 ――給付金を所管する中企庁もいい加減な説明をしてきたわけですね。

 はい、裁判になって初めて説明をつくり始めたという印象です。実際は一部の権力者に忖度しているだけですから、(性風俗事業者の)排除に大した理由はなかったのではないかと思います。

 ――公共訴訟も新しいとらえ方ですが、平さんは公法系弁護士と呼ばれていますね。

 民事・刑事も扱ってはいますが、行政法の研究をしているということと、憲法や行政法に関わる訴訟を扱う割合が高いから、ということなのでしょう。中学時代から漠然と刑事弁護人になりたいと思っていたのですが、次第に憲法や行政法に興味が湧き、行政裁量などを研究するようになりました。その研究成果を実際の訴訟で依頼者の方々のために活用し、さらには憲法や行政法の発展にも貢献できればと考えています。

■差別感情に重きを置けば司法は死ぬ

 ――公共訴訟、公法系の事件など「公」を意識した活動が最近、広がりを見せているようです。公益性、公をどのように考えていますか。

 公益や公は社会秩序として語られることが多いのですが、不特定多数の個人の集まりが社会をつくっています。やはり個人の憲法上の人権が公の基礎にあるべきです。全体主義的な発想ではなく、個々人が日々の生活をしていくために役立つものが公です。政権に都合のいいことが公益ではありません。国民感情も、政府に都合のよいものだけを抜き出すことは許されるべきではありません。国は違憲・違法な措置をきれいな言葉で取り繕おうとします。国際協調主義のために東京五輪をやるべきだと言った方もいましたが、コロナでなんの罪もない人が目の前で大勢死んでいるんです。人の生命や健康よりも、国家プロジェクトを推進することが公の利益だと言われても、それは市民の生命・健康を守るという国家の役割を放棄しているに等しいことです。一方で、コロナ禍の五輪開催について、マスコミ報道も政府に正当な批判を十分にしてきているのか疑問があります。報道の責任も重いと思います。

 ――行政訴訟で勝訴を獲得することは厳しい道ですが、今の司法には期待できますか。

 私は集団的自衛権行使を認める今の安保法制が違憲だと訴えている違憲訴訟の弁護団の一人でもあります。全国でこの違憲訴訟は起きていますが、各地の裁判所はまともに判断していない印象で非常に絶望的です。一方で、今年3月に札幌地裁が出した違憲判断は非常にいい判決でした。

 ――どのような裁判だったのですか。

 同性婚を認めるパートナーシップ制度を自治体が設けないことが憲法14条の平等原則に反するという判決です。この判決に関して地裁は、同性婚にネガティブな国民感情もみられるが、それを重視してはいけないと述べました。同性婚は趣味嗜好の問題ではなく、生まれながらに決まっているものであり、本人の努力で変えることができないものに理解を示す国民感情が大きくなっており、それを重視すべきだと判断したんです。裁判所は、憲法や法律、法律の趣旨に適合する国民感情を選び、それを重視して審査すべきで、逆に、差別感情に重きを置けば司法は死んでしまいます。少数者を守るという裁判所の役割をまったく果たせません。札幌地裁のような裁判官がいることを信じて弁護士活動を続けていきたいです。 

(聞き手=平井康嗣/日刊ゲンダイ)

▽平裕介(たいら・ゆうすけ)1981年東京都生まれ。2004年中大法学部法律学科卒。06年日大法科大学院修了。08年弁護士登録。法務博士(専門職)。司法試験予備校伊藤塾講師。日本大学法学部・法科大学院、国学院大学法学部非常勤講師。東京弁護士会憲法問題対策センター副委員長。東京都国立市行政不服審査会委員を務めるなど、法曹実務経験や研究内容を踏まえた専門的知見を自治体などに提供。映画「宮本から君へ」助成金不交付決定処分取消訴訟の弁護団メンバー。

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