避難に生かすため覚えたい気象用語 「線状降水帯」は今年6月から気象庁が発表
ついに恐れていた事態が起きてしまった。静岡県熱海市の土石流災害は4日目に突入。いまだ安否不明者が多数いる。改めて自然の猛威を感じざるを得ないが、台風シーズンはこれから。家族を守るために正しく気象用語を理解し、避難に生かしたい。
◇ ◇ ◇
気象庁は沖縄や伊豆諸島に「顕著な大雨に関する情報」を出した。これは6月に新しくできた気象用語で、積乱雲が線状に連なる「線状降水帯」が発生し、非常に激しい雨をもたらすことを意味する。発表基準はこうなっている。
(1)〈3時間積算降水量100ミリ以上の区域が500平方キロ以上〉
(2)〈①の形状が線状(長軸・短軸比2.5以上)〉
(3)〈①の領域内の3時間積算降水量の最大値が150ミリ以上〉
(4)〈大雨警報(土砂災害)の基準を実況で超過、または洪水警報の警報基準を大きく超過した基準を実況で超過〉
このひとつだけでも凄いのに、4つすべてを満たした場合に発表されるというからスペシャルな大雨だ。気象庁によれば、「今回はやばいんだと思ってもらうようなメッセージ」だという。
この「線状降水帯」は、2018年の西日本豪雨や20年の九州豪雨の原因にもなったもので、17~20年は年間13~22回発生。そのうち、約8割で床上浸水や土砂災害などが起きている。4年間計71件のうち最も多かった月が、まさしく今の「7月」(25回)だ。
ウェザーマップの気象予報士で防災士の内藤俊太郎氏が言う。
「ただし、発表時点ですでに激しい雨が降っている場合が多い。“同じ位置で大雨が降り続く”という予報ですので、『線状降水帯』というワードが出たら、土砂災害や川の氾濫といった災害が起きやすい呼びかけだと考えてください」
発表された時点ですでに屋外への避難が難しい状態になっている可能性が高い。テレビのチャンネルはNHKに切り替え、スマホのアプリ「ヤフー天気」や「気象庁レーダー JMA」を確認したい。
■「土砂災害警戒警報」なら崖側から避難を
次に2013年から発表されている「特別警報」とはどういうものなのか?
警報・注意報をはるかに上回るレベルの警戒を呼び掛ける合図で、大雨や大津波、噴火など重大な気象災害が起こる恐れが著しく大きい場合に発表される。気象庁は警戒レベルを5つに分類していて、豪雨や台風でいえば「大雨特別警報」(警戒レベル5)がある。昨年7月に50人以上の犠牲を出した球磨川の氾濫が該当する。「大雨特別警報」が出たら、我々がとるべき行動は何か。
「気象庁が『警戒レベル4』を出した時点で自治体が避難指示を発令します。それを上回るレベル5が発令されたら、すでに災害が発生または切迫していることを示しています。また、『特別警報』のテロップと同時に、気象予報士、アナウンサーが『警戒してください』『厳重に警戒してください』『最大級の警戒をしてください』と呼びかけるのを聞いたことがあると思います。『厳重に警戒~』というワードが出てきたら、災害が起きる可能性を示しています。すぐに避難の準備をしてください。『最大級の警戒~』は特別警報とイコールです」(内藤俊太郎氏)
警戒レベル4の「土砂災害警戒情報」も危険な災害の警告だ。
「このテロップが出たら家屋が持っていかれるレベルの災害が発生する可能性を示しています。避難することが求められますが、台風などで動けない状態であれば、2階以上で崖に面していない部屋に移動してください」
自己判断の避難も大事だ。
「大雨特別警報」が出たら自宅の高層階に
そして、「50年に1度」や「100年に1度」といった用語はどういう時に発表されるのか。
気象庁は全国51地点の100年以上の大雨データから、その数値が何年に1回の割合で起きているかを試算している。
たとえば1日の降水量が東京の場合、260ミリで「50年に1度」、289ミリで「100年に1度」と定義づけているという。最近、「100年に1度の大雨」と発表されたのは、19年の「令和元年東日本台風」(19号)だ。都内では1時間に80ミリ以上の雨が続き、氾濫被害が大きかったのは多摩川沿いの一部。濁流が流れ込んだ川崎市の武蔵小杉周辺のマンホールから内水氾濫が発生し、タワーマンションの停電も起こった。世田谷区内の建物にもピーク時には1メートル級の濁流が流れ込んで、住民は移動ができなくなった。
「100年に1度」なら、すでに命の危険が迫っている。ただちに身の安全を確保しなければならない。
もし逃げ遅れてしまったら、ひざ下(30~50センチ程度浸水)でも家から脱出することは困難だ。
また、靴がすっぽり漬かった状態でも、移動中にマンホールに吸い込まれたり、転んだりした際のリスクが高い。家の2階以上、マンションの高層階、近隣の鉄骨製の建物の上層階に避難しよう。
ちなみに「記録的豪雨」の「記録的」にも注目したい。基準は気象庁が出している一年を通しての月ごとのランキングだ。
「上位5番目以内に入っていれば、記録的などの形容詞をつけることが多い。統計的に5番以内に想定される大雨なら、川の氾濫や土砂災害による地形の変化が起きるケースがあります」(内藤俊太郎氏)
一方、猛暑の場合、07年以降、用語として一日の最高気温が35度以上の日を「猛暑日」と定義している。それまでは35度以上を上回る日が少なかったこともあって、名付けられることはなかった。
「記録的猛暑日」となれば、過去5番以内の高温日ということ。屋外の長期滞在や冷房の効かない室内にいると命の危険があることを示している。「記録的」というワードがあれば、実家の親や介護ヘルパーさんに冷房をつけっぱなしにしてもらうように頼んだり、対策をしておきたい。
国交省は16年から、各地での水害や地球温暖化を考慮して「1000年に1度の大雨」が起きたことを想定した「洪水浸水想定区域」を公表し始めた。少なくとも自分の家の周囲の浸水想定区域や土砂災害リスクなどを知っておき、もしもに備えたい。