戦禍を逃れた魚屋の5代目店主が見つめる「おかず横丁」の変遷(台東区・鳥越)

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 江戸時代に馬に乗ることが許されない下級武士らが多く住んでいたことが地名の由来になったという御徒町。都営地下鉄の新御徒町駅から秋葉原方向に7分ほど歩くと「おかず横丁」が見えてくる。

 通りの長さはおおよそ230メートル。左右を見ながら散策すると酒屋や漬物屋、花屋など年季の入った店舗がちらほら目に入る。その中のひとつ、佃煮屋「入船や水上商店」を営む水上幸夫さん(83)が、ゆったりとした口調で話してくれた。

「ここは昭和10年からやっていて、僕は2代目。おかず横丁はもう厳しいよ。昔は店が50軒以上あって、自転車も通れないくらいお客さんで賑わったんだ。今はもう20軒ほどでしょ? すぐそこの定食屋『今むら』も、店主が足を悪くして、2年くらい前に閉じちゃった。僕もいつまで続けられるかな」

 水上さんから「あっちの魚屋にも話を聞いてごらん」と勧められた先は「魚米商店」。戦禍を逃れた3階建ての建物は築100年を超えるそうだ。5代目の店主で、おかず横丁の会長を務める横山欣司さん(67)は「栄枯盛衰、自然淘汰だよね」と、こう語る。

「お客さんも店も、この通りが最も賑やかだったのは昭和30年ごろかな。どこの店も住み込みの従業員を抱えていたし、私が子供の頃はここも15人ほど雇っていたね。祖父なんて『儲かるから朝が来るのが楽しみで仕方がない』と言っていたくらいだもの。そりゃすごかった。私が病気の兄の代わりに店を継いだのは23歳くらいの時で、初任給は40万円(笑い)。20代で2000万円のマンションを買えたんだ。だけど、時代の流れで一つ、また一つと周りの店が閉じていってね……」

 少しの間を置いて「寂しいよね」と、ポツリ。そこへ、「こんにちは」と手押し車と共に焼き魚を買いに来たのは、御年80歳を越えるご婦人。「嫁に行く前からだから、もう70年以上もここに通っているの。私は浮気しないんですよ」とほほ笑んだ。横山さんが「この方が結婚する時に、花嫁衣装で一緒に写真を撮ったんだ」と言えば、「あの時、あなたは9歳だったね」とご婦人。よく覚えていますねと驚く記者に対し、「ここは人情の街なのよ」と少し誇らしげだ。

 買い物を終え、ゆっくり小さくなっていく彼女の背中を見送りながら、横山さんは続ける。

「親子3代で通ってくれる人もいるんだよ。うれしいよね。それで、話を戻すとね、バブルの頃は店を手放して土地を売っちゃう人が多かったの。おかず横丁の出口辺りは1坪8500万もしたんだから。私も店に固執していないし、良い話が来たらそうするつもりだったけど、その前にバブルがはじけちゃって。景気も悪くなるし、その頃からどんどんスーパーマーケットも増えてね。商店はどこも苦しいよ。だからウチは学校や飲食店へ卸売りも始めたんだ」

 コロナ禍は魚米商店にも大きな打撃を与えているという。

「飲食店がまともに営業できなくなったから受注も減って、この1年半で300万円くらい赤字だよ。この店の上で暮らす92歳の母が生きている限りは営業しようと思っているんだけどね。息子も店を継ぐ気がなさそうだし、ここの土地を売って遊んで暮らすつもりだよ。おかず横丁の会長職も、誰に任せようか考えているの」(横山さん)

 店の向かいにある、鮮やかなオレンジ色の看板を掲げるインド料理屋を眺めながら、横山さんはたばこにそっと火を付けた。東京の下町で、ひとつの歴史が終わろうとしている。

(杉田帆崇)

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