必要のない仕事で忙しい人たち…「偽仕事」はどうして増え続けるのか?

公開日: 更新日:

世界は70年間発展していない

 だが待ってほしい、と言う人もいるかもしれない。週15時間労働が実現していないのは、きわめて合理的な理由からではないか? 発明、発展、長寿、iPhone、ペニシリン、心臓のバイパス手術には対価が求められる──仕事という対価だ。人類が新しい次元の快適さ、楽しさ、繁栄、幸福にようやくたどり着くと、社会はそのたびにもう少し働くようにとわれわれに要求する。

 余分の自由時間は、いつももう少し先へとくり越される──数十年先、場合によっては数百年先へ。目には見えにくいかもしれないが、知識経済も、現代の労働市場におけるさまざまな新しい職業も、われわれの個人的成功と金銭的成功にとって重要な側面だ。「(私たち2人を含め、こうした)新しい仕事の多くが無意味だと論じる人は、それを理解していないのではないか」そんなふうに論じる人もいるはずだ。

 私たちの考えはちがう。人類の無限の創造性と発展の対価として自由時間が不足しているという考えは筋が通らない。この70年間、重要な発展は新しく起こっていないからだ。

 この考えは受け入れがたいかもしれない。以前よりも速い自動車や飛行機、よい薬があるではないか。寿命は延び、情報技術はかつてないスピードで発展して、コンピューターの処理能力は18か月ごとに倍増してきた。

 だが、改良はしょせん改良にすぎない。性能についても使いやすさについても、それは同じだ。

 インターネットは1960年代に発明されていて、一般市民が利用できるようになったことで世界を変えた。われわれは今でも1953年にすでに発明されていた自動車を運転していて、同じ種類のジェット機で空を飛んでいる。洗濯機、列車、電球など、ありとあらゆるものに同じことが当てはまる。われわれの生活は曾祖父母の時代とはかなり異なるが、祖父母の時代とはあまり変わらない──親の時代については言うまでもない。

 この数十年間、世界は思ったほど変わっていない。進歩は停滞しているといえるかもしれない。

【著者】
デニス・ノルマーク
1978年生まれ。デンマークの人類学者、講演家、著述家。オーフス大学で人類学の修士号を取得したのち、長年にわたってコンサルタントや企業の社外取締役として働き、現在はフリーの講演家およびコメンテーターとして国際的に活動している。英訳された『Cultural Intelligence for Stone-Age Brains』など、文化や文化の差異についての著書がある。

アナス・フォウ・イェンスン
1973年生まれ。フリーで活動するデンマークの哲学者、著述家、劇作家、講師。パリのソルボンヌ大学で哲学の修士号、コペンハーゲン大学で博士号を取得。英訳された『The Project Society』や『Brave New Normal: Learning from Epidemics』など10冊の著書があり、そのほとんどが現代社会と私たちの現状を論じたものである。ウェブサイトはwww.philosophers.net およびwww.filosoffen.dk。

【訳者】
山田文
翻訳者。訳書に『ステイ・スモール 会社は「小さい」ほどうまくいく』(ポール・ジャルヴィス、ポプラ社)、『地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる』(ビル・ゲイツ、早川書房)、『「歴史の終わり」の後で』(フランシス・フクヤマ、マチルデ・ファスティング、中央公論新社)などがある。

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 暮らしのアクセスランキング

  1. 1

    (1)東京・杉並区を流れる善福寺川周辺にも、「アサ」「ツル」「カマ」は湿地、「エコ」は川の入江を示す水害地名

  2. 2

    これは「多死社会を先取りした街」の姿だ! 「地域全体が老人ホーム」になったドヤ街「山谷」で、オヤジさんたちがカラオケを楽しむ居酒屋に突撃してみた

  3. 3

    荻窪「銭湯GOKURAKUYA」銭湯では珍しいセルフロウリュにウキウキ

  4. 4

    「あの人、もったいなかった…」ではもう遅い! 婚活男性を次々断る“ポイポイ婚活”女性の落とし穴

  5. 5

    9月も漁獲量8割減…歴史的不漁で1匹400円のサンマに続き秋サケ・サバも全滅危機

  1. 6

    (2)「丸子「野毛」「等々力」など東京と神奈川で同じ地名 多摩川の氾濫で分断された水害の痕跡

  2. 7

    ドヤ街「山谷」の憩いの場・玉姫公園で見た異様な光景 「倒れている人がいるのが当たり前」という“異世界”を目の当たりに

  3. 8

    男女平等「世界117位」の日本、古代は先進国だった? 16代の天皇のうち8代が女性だった「女帝の時代」

  4. 9

    (4)大阪「梅田」は埋立地を示唆 東日本大震災で液状化した関東3エリアに共通する地名「日の出」が偶然でない理由

  5. 10

    (3)東京・港区愛宕の「アタ」も横浜・野毛の「ノゲ」も崖地 首都圏沿線の「丘」「台」は崩壊地名の可能性

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    萩本欽一〈47〉気仙沼ちゃんは民宿4軒経営の大女将に 説教してテレビで夫を募集させた甲斐があった

  2. 2

    阿部慎之助にした「今ならパワハラで即クビ」の指導&落合博満から学んだ仰天トレーニング

  3. 3

    モグライダーともしげが埼玉の中高一貫ミッションスクール聖望学園で打ち込んだアメフト《26年夏番外編》

  4. 4

    千葉秋季大会開幕も専大松戸が「来春センバツを狙う」と宣言できない切実なチーム事情

  5. 5

    萩本欽一〈46〉斉藤清六が泣きながら持ってきた1000万円、追い返そうと思って貯金額を聞いたら驚いた

  1. 6

    広島4番栗原に敵将・落合監督は「四球でいい」と助言を…

  2. 7

    timelesz猪俣周杜「傷害容疑で逮捕」に“ダブルでガッカリ“…ファンの計り知れない失望

  3. 8

    菊池風磨はジャニー喜多川氏の“推薦”もあって慶大総合政策学部に進学 仕事の合間に1日10時間の猛勉強

  4. 9

    萩本欽一〈45〉斉藤清六を全国区にした誰も知らない裏話 “弟子入りNG”から評価を一転させたんです

  5. 10

    4度結婚した宇野千代の“不倫”をNHK朝ドラ「ブラッサム」はどう描く?「カーネーション」は真正面から