脳科学者・中野信子さん「死亡年齢の中央値は93歳。あと43年を有効に使い切ることができるか」

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違いがあることが、集団として生き延びていくのに重要なこと

 人生相談をお受けすることの喜びの一つは、自分と違うように世界を見ている人の視点を、私にも少しだけ体験させていただけるところです。こんなことを言ったら怒られてしまうかもしれませんが、深く悩まれたり、苦しんでいらしたりと、真摯な思いで向き合っていらっしゃるほど、その風景は色鮮やかにうつります。

 お答えしていく中で、見たことのなかった景色を、そのときだけは、その人の人生をほんのひととき一緒に生きることができるんですよね。私には易しい問題でも、誰かにとっては難しいということもありますし、逆に私には難問でも、誰かにとっては容易に乗り越えられる壁だったりもします。その違いがあることが、集団として生き延びていくのに重要なことなのです。

 また、自分はなぜこのようであるのか、と悩まれている方も多数おいでになるのですが、欠点と考えているそれがそのまま能力でもある、というのが人間の面白いところでもあります。

 たとえば、どうしてもウソをつくことがやめられない、という方からのお悩みをいただいたことを近著では取り上げています。この方はあろうことか、公務員でいらしたんです。しかし、ウソをつくことができ、その能力で人を喜ばせたり楽しませたりすることができるというのは、ある種の才能でもある。人間は、つまらない事実などより、刺激的で華々しい虚構にお金を払うものだからです。

 私は、あなたのその性質はクリエーティビティーの発露なのだから、公務員のお仕事はさておき、ぜひ創作にその能力を生かして、と励ましのエールを送ることにしました。虚構を上手に構築して人を楽しませるというのは、私にはない能力で、正直申し上げてうらやましくもなりました。

 また別の方からは、不安になりすぎる自分の取り扱いについてどうしたらよいかというご相談をいただきました。不安傾向の高さには遺伝的な要因があり、日本人はその持ち主が多いのです。

 進化心理学的に言えば、不安傾向が高いことによって生き延びた人が日本には多い可能性があるということでもあります。世界的に見ても自然災害の多い国ですから、むしろ不安な気持ちが強く、敏感でなければ、生き残ることが難しかったという歴史もあったことでしょう。不安な気持ちは不快なものですが、私たちがここまで生き残ってくるための武器でもあった。

 見方を変えて、なくしたいと思っていた自分の一部にも役割があることを知るだけでも、随分と気持ちが安定するのではないかと思うのです。

 食べたいものですか。最後の晩餐、を意識してお答えすべきでしょうね? 好きなのは断然、鴨肉です。

 食べるようになったのはパリにいた時からです。スーパーで鴨肉、ジャム、ワインを買ってきて、鴨肉を焼き、ジャムやワインで調理してよく食べていました。これがとてもおいしい。とくに疲れて何も作る気力がないような時はいつも鴨肉を食べていました。帰国した時にどうして日本ではあまり鴨肉を売っていないのかと思いましたね。

 日本では鴨肉というとそば屋の鴨せいろです。死ぬ前に何を食べたいと聞かれたら、「鴨せいろ」と答えます。食べて死ねたら幸せですね(笑)。

 (聞き手=峯田淳)

 中野さんにとって人生相談の本は今回が初めて。一般の悩み相談だけではなく、松重豊、高見沢俊彦、デーブ・スペクター、大久保佳代子、大下容子ら著名人の悩み相談にも答えている。

 よくある悩み相談や人生相談と大きく異なるのは、脳科学の視点から考えている点だ。「人の記憶は簡単に書き換わる」「正義中毒に陥る人」「思考の中枢を担う大脳皮質は母親から遺伝する」といったもので、それらを理解することで解決する割合が増えたり、それが悩みではないことなどがわかるケースも。

 全体を「不安を味方につける」「人間関係に効く脳科学」「インターネット、世間へのモヤモヤをほぐす」「年齢と記憶の疑問に答える」など6章で構成。

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