元テレ東・高橋弘樹×元横浜DeNA・高森勇旗「仕事の辞め方」…“お金”や“成功”の不安とどう向き合う
現実を認めるところから始まる「降伏論」
高森 「人間関係がうまくいかないから辞めます」という人もうまくいかない状況を引き寄せたのは自分自身だと認められたら、次の会社では良好な人間関係を築けるかもしれません。ただ、「この会社は人間関係がダメなんだよなぁ」と言っているうちは次の会社でも同じことを言い続けることになると思います。人は同じようなことを繰り返しやるというのは、いろいろな会社と仕事をしてきたなかで見えてきた法則です。
入山 ただ、辞めたからといって必ずしもおふたりのように成功するとは限らないわけじゃないですか。とくに異業種に飛び込んだ高森さんは、非常にレアケースです。そこで、辞めるとき、あるいは新しいことを始めるとき、どんなことを意識すべきなのでしょうか?
高森 新しいジャンルに進出するときに、過去に自分が蓄積してきたことが生かせると思ってはいけないということではないでしょうか。どれだけ期待されてもルーキーはルーキーなので、まずは球拾いを楽しめるかどうか。そこで「屈辱だな」と感じてしまうと、何もかもうまくいかなくなると思いますね。
高橋 僕は高森さんと立ち位置は真逆でいまの仕事は前職の延長線上にあります。だから、失業する懸念はないというか、最悪自分の時間を切り売りしてVTRとかをつくっていれば、ある程度食えるなとは思っていました。その安心感があったので、専門職型の人は比較的サクっと辞めてしまっても大丈夫かもしれないですね。あとはどこまで生活レベルを落とせるか、家族をきちんと説得できるか(笑)。「3食きちん と食べられれば、まあいいですよ」と家族の許可が得られれば、辞めていいのではないかと。
高森 その話で思い出したのが、僕が野球を辞めた当時付き合っていた彼女、いまの妻とのことです。僕が20歳のときに彼女と出会って24歳でクビになりましたが、25歳で結婚しました。ベイスターズを辞めた当時、横浜の端のほうで暮らしていましたが、その翌月、彼女が暮らしていた世田谷方面に家を借りて、3年ぐらい住んでいたのです。ふたりで家賃を折半し、慎ましい生活をしていました。ただ、それはとても幸せな日々でしたね。のちにそれなりに稼げるようになって、生活の質もずいぶん上がりました。それでも、仮にいまの生活が全部なくなったとしても、あのときに戻るだけですし、それでも幸せだなと思えますね。
高橋 すごくいい表情をされていたから、そのときが本当によかったんですね。
高森 ええ。僕がすごく尊敬しているつも僕にこう言うわけです。70代半ばの経営者がいます。とても大きな財を成した方で、いつも僕にこう言うわけです。「とんでもない儲け話がこれまで山ほど来たけど、結局、手の平にのるだけでいいんだ」と。
高橋 「手の平にのるだけ」とはどういうことですか?
高森 「手の平にのるだけのお金があればいいんだ」ということです。人は生活レベルを上げようとしすぎると、必ず失敗するという警告だったんですね。
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▽高橋弘樹(株式会社tonari代表取締役社長) 1981年、東京都生まれ。2005年に早稲田大学政経学部卒業後、テレビ東京入社。「家、ついて行ってイイですか?」「吉木りさに 怒られたい」などのヒット番組を企画・演出。21年よりユーチュ ーブチャンネル「日経テレ東大学」の企画・制作統括を務め、23年2月に退社。同年3月に代表を務める株式会社tonariで、ビジネス動画メディア「ReHacQ」を開設。サイバーエージェントにも入社し、「ABEMA」で演出・プロデュースした「世界の果てに、ひろゆき置いてきた」「世界の果てに、東出・ひろゆき置いてきた」の“せかはて”シリーズが人気を博す。
▽高森勇旗(株式会社HERO MAKERS.代表取締役) 1988年、富山県生まれ。岐阜県の中京高校で1年生のときから正捕手を任され、高校通算30本塁打を記録。2006年、横浜ベイスターズ(現・DeNA)にドラフト4巡目で指名され入団。08年、イースタン・リーグ(2軍)史上5人目・4年ぶり、リーグ史上最年少となるサイクルヒットを記録。12年に戦力外通告を受けて引退。その後、データアナリストやライターなどの仕事を経て、ビジネスコーチとしての活動を開始。16年、企業の上級管理職にコーチングを行なう株式会社HERO MAKERS.(ヒーローメーカーズ)を立ち上げ、代表取締役に就任。 50社以上の経営改革にかかわる。
▽入山章栄(早稲田大学ビジネススクール教授) 1972年、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了後、三菱総合研究所に入社。研究員、コンサルタントを経て、米ピッツバーグ大学経営大学院で経営博士号を取得。ニューヨーク州立大学バッファロー校で助教授を務めた後、2013年に日本に帰国し、早稲田大学ビジネススクール准教授、19年、同教授に就任。複数企業の社外取締役を務めるなど、理論と実務双方を実践している。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社)、『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)のほか『宗教を学べば経営がわかる』(文藝春秋、池上彰氏との共著)などがある。