埼玉愛犬家連続殺人事件 共犯者の中岡洋介(仮名)[前編]「この裁判は根本からおかしい」

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 1993(平成5)年、埼玉県熊谷市で、愛犬家ら4人が殺害された。2年後に逮捕されたのは、ペットの繁殖・販売をする「アフリカケンネル」を共同経営していた関根元(2017年に病死)と風間博子元夫婦。同社の名目上の役員であった中岡洋介(仮名=98年に満期出所)は、死体遺棄などに手を貸したとされる。

 ◇  ◇  ◇

「ボディーを透明にする」──。それがこの事件のキーワード。犠牲者の遺体はサイコロステーキほどの大きさに刻んで川に流し、骨は高熱で焼いて粉にしてしまう。ここまでやる殺人者は、世界を見渡してもそうそういない。犯罪のプロである暴力団でも、人里離れた山中に遺体を埋めて終わりだ。

 中岡は群馬県片品村で貨車2台を改造してT字形に置いた「ポッポハウス」と呼ばれる家に住んでいた。その浴室が遺体の解体場所となった。中岡が死体遺棄などに協力をしたのは、関根らに遺体を見せつけられた恐怖からだという。

 中岡は手記を出している。その中で、風間について、〈遺体を刃物で切り刻みながら、中村美律子の「河内おとこ節」を口ずさんでいる〉と語っていた。男っぷりを誇る、晴れやかな曲だ。死体解体を楽しむ、恐るべき殺人者の姿に見える。

 私は中岡の供述調書を見る機会を得た。だが、そこでは同じ中村美律子だが、口ずさんでいたのは「大阪情話」となっていた。飛田の店に女性が身を売る歌詞で、しっとりした曲だ。手記と供述調書とで、なぜ歌が違ったのかを中岡に聞いたことがある。

「博子が演歌を歌ってたなんて、ありゃあウソだからね。そういうふうに書かなきゃ、おもしろくないでしょ? ノンフィクションみたいにはなってるけど、あれは小説だから」

 そして、こうも言っていた。

「絶対、博子は殺してない。殺人に関しては100%無罪ですよ。ただ、死体遺棄はやっているけど……。そういう人を死刑にしてもいいもんですか」

 最初の殺人は93年4月20日に起こった。この時、関根が51歳、風間が36歳、中岡が37歳。犠牲になったのは、犬の売買で関根とトラブルのあった、山上治男さん(仮名・39歳)だった。

 7月21日には、山上さん殺害に気づいて関根をゆすっていた暴力団幹部の高城康伸さん(仮名・51歳)と付き人の小宮山亮さん(仮名・21歳)も殺された。

 さらに8月26日、関根が法外な値段で犬を売りつけた上、偽の投資話で金を巻き上げていた田中泰代さん(仮名・54歳)が殺された。

 ただ、最も雄弁な証拠である遺体が消滅しているため、捜査は難航した。

 翌94年になると、関根の周辺に行方不明者が多いことをメディアが騒ぎ出した。同年、中岡の結婚したばかりの妻が別件の詐欺容疑で逮捕される。中岡はこれを放ってはおけなかったのだろう。94年11月、自ら埼玉県警に連絡して任意の事情聴取に応じた。この時の彼の供述は、関根と風間が殺人を行い、自分は死体遺棄を手伝わされたとの内容。彼の案内で、片品村の山林から多数の骨粉や犠牲者のロレックスなどが見つかった。

「殺人も何もやっていないのに」

 年の明けた95年1月5日、関根と風間が逮捕されて、中岡の妻が釈放された。8日に逮捕された中岡は2人とは別に裁判を受け、死体損壊・遺棄罪で3年の懲役に服した。一方、関根と風間の裁判は互いに罪をなすり付け合い、公判は長期化した。中岡は、浦和地裁(現さいたま地裁)と東京高裁で関根と風間の法廷に証人として招かれている。

「なんで博子がここにいんの? ですよ、問題は。殺人も何もやってないのに、なんでこの場にいるか。それで釈放しないというのはおかしいですよ。俺が出てるんだから。もうこの裁判は、そこから根本おかしいですよ」

 風間の殺人無実を述べ、取り調べ時の供述は検事による作文だと断じた。しかし、2009年6月に2人の死刑が確定。死刑囚となった風間は現在も、殺人の関与を否定している。風間はなぜ事件への関与を疑われたのか。長男の和春(仮名)は、母の“アリバイ”を証言する。

▽深笛義也(ふかぶえ・よしなり) 1959年、東京生まれ。30代からライターとして、週刊新潮「黒い報告書」などを執筆。著書に「女性死刑囚」「労働貴族」(いずれも鹿砦社)、「」(サイゾー)。今年1月、「2022年の連合赤軍」(清談社Publico)を上梓。「」を原作とした「実録ドラマ 3つの取調室~埼玉愛犬家連続殺人事件~」が20年10月、フジテレビ系で放映された。 

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