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片岡健ノンフィクションライター

出版社リミアンドテッド代表。著作に、「平成監獄面会記」、同書が塚原洋一氏によりコミカライズされた「マンガ 『獄中面会物語』」(共に笠倉出版社)など。

上田美由紀死刑囚が獄中死前に見せていた異変…文通を続けたライターに八つ当たり

公開日: 更新日:

「毒婦」と呼ばれた木嶋佳苗死刑囚に激怒し、筆者に八つ当たり

 彼女が私と面会や文通をしていた頃は、獄中にいながらさまざまな人間と軋轢を起こしていた。

 09年の秋ごろ、周辺で次々に男性が不審死していた疑惑が表面化した上田死刑囚は、その数カ月前から話題になっていた首都圏連続不審死事件の木嶋佳苗死刑囚(48)=当時は被告人=と共に「東西の毒婦」と呼ばれた。

 2人はともに肥満体形で、美人とは言い難い容貌。それでいながら不審死した男性たちから金品を受け取っていたことが共通しており、何かにつけてメディアで比較された。

 だが、本人は木嶋死刑囚と比べられるのを嫌がっていた。

「似ていると言われても、私は木嶋さんを知りませんし…木嶋さんだって私と比べられ、いい思いがしないと思うんです」

 私にそう語った彼女の言葉には、木嶋死刑囚への気遣いが感じられた。木嶋死刑囚が容姿や法廷での服装を面白おかしく報道されていたことについて、「木嶋さんがかわいそうです」と同情したりもしていた。

 だが、ある時、木嶋死刑囚が突如、支援者の手を借りて開設したブログで上田死刑囚を批判するようなことを書いたら、事態は一変した。彼女は私宛ての手紙で怒涛のように木嶋死刑囚を批判するようになった。

「彼女は人をあまりにも侮辱し過ぎです」

「人を見下す彼女のスタイルは許せません」

「逆にかわいそうとさえ思います」

 このとき驚いたのは、上田死刑囚が私に八つ当たりしてきたことだ。

「片岡さんが彼女を取材するなら、私はおります!」

 本を出したいという希望を持っていた上田死刑囚は当時、獄中で書いた手記を私に送り届けてきていたのだが、なぜか私が木嶋死刑囚と裏で通じているように疑い、そんなことを言ってきたのだ。私が木嶋死刑囚と一切関わっていないことを説明したら納得していたが、その猜疑心の強さは異常だった。

 上田死刑囚は当時、全国各地の男性獄中者と文通していたが、途中から仲たがいすることが一度ならずあった。取材を受け、最初は関係が良好だった記者を突如批判し始めたり、特定の記者の名前を挙げ、「面会中に盗聴された」と真偽不明のことを言って騒ぎ立てたりもした。

 09年に上田死刑囚の疑惑が報道された当初、彼女が勤めていた鳥取市のスナックのママや同僚の女性たち、隣近所の人らがメディアに対し、彼女の言動の異常性をいろいろと証言していた。そのため、この人たちのこともよく批判した。

「私が働いていたスナックには、絶対に取材に行かないでください。嘘ばかりつきます」

「私が住んでいたアパートの住民たちは生活保護で、シャブ中の人間ばかりでした」

 という具合にだ。

 しかし、彼女に悪く言われた人たちに取材してみると、どの人も親切で、逆に金を盗まれたり、だまし取られたりしていた。それでいながら、彼女のことをことさらに悪く言うわけでもない。彼女が人の好意につけ込むようにして生きていたことがうかがえた。

 そんな彼女の人格形成を解明する鍵は、生い立ちにあるのではないかと私は思っていた。彼女自身は、愛情をもって親に育てられたように言っていたが、その割に親との思い出を具体的に語ろうとしなかった。しかし結局、取材でその事情に迫ることはできず、それが今も心残りだ。

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