永田洋光
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永田洋光スポーツライター

出版社勤務を経てフリーになり、1988年度からラグビー記事を中心に執筆活動を続けて現在に至る。2007年「勝つことのみが善である 宿澤広朗全戦全勝の哲学」(ぴあ)でミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。近著に「明治大学ラグビー部、復活への軌跡」(洋泉社)などがある。

史上初の8強入り果たすも日本ラグビー界に立ち込める暗雲

公開日: 更新日:

ファンの期待と現実のギャップ

 しかし、ではこれからもラグビーは順調に「世界に通じる競技」として存在感を発揮できるのかというと、これが実は心もとない。

 ラグビーは、ポーカーに例えれば、今回が日本でのW杯初開催という意味で、ビギナーズラックに恵まれて望外の成果を得たのにすぎず、これからはどんどんチップをレイズされた状態で戦うことを強いられる。

 国内のファンも、ベスト8以下の成績では満足せず、さらに「上」の結果を求めるだろう。

 ところが、歴史をひもとけば、初めてベスト8に到達した次の大会でベスト4以上の結果を残したチームは、第1回大会で8強入りしたイングランド(第2回大会準優勝)と、スコットランド(同ベスト4)だけ。そのくらい「さらに上」へのハードルは高いのだ。

 しかも国内に目を向ければ、7月に清宮克幸・日本ラグビー協会副会長がぶち上げたプロリーグ構想は今に至るも構想のままで、2021年度からの実施に暗雲が漂う。

 代表強化のための施策と位置づけられたサンウルブズによるスーパーラグビー参戦も、20年度限りで「除外」となり、それに代わる代表強化策は未定のまま。つまり、成果を4年後につなげる道筋が見えないまま、年を越すことになる。

 代表選手たちの活動母体となるトップリーグは、年明け12日に開幕。5月9日の最終節まで熱闘が続くが、この期間がスーパーラグビーのシーズンと重なるため、果たしてサンウルブズに“W杯戦士”たちが参加するかどうかも不透明なままだ。選手たちが所属する各チームは、これまでW杯のために選手を代表やサンウルブズに送り出してきた経緯があり、今回は、なかなか選手たちを手放しそうにない。

 7月には来日するイングランドと2試合、11月には敵地に乗り込んでのスコットランド戦、アイルランド戦が予定されているが、5月にトップリーグとスーパーラグビーが終了すれば、それ以外に予定されている試合は、東京五輪で行われる7人制を除いて、現段階ではない。21年のトップリーグを、清宮副会長が提唱するプロリーグへとリニューアルできるか否かが分からないため、20年秋以降の日程を組めずにいるのだ。

 トップリーグ参加チームの関係者が言う。

「清宮さんの剛腕なら、プロリーグが21年から実現する可能性もゼロではないかもしれないが、まだ各チームの対応もバラバラで、プロ化に積極的なチームもあれば、様子見といったチームもある。むしろ、今のトップリーグを発展させる形の方が現実的ではないでしょうか」

 実際、21年から新しいリーグをスタートするためには、20年度の成績によって参加チームを決めるのか、それとも今のチームを統合・再編するような形で参加チームを募るのかも決まっておらず、これでは21年スタートは難しい。

 仮に、22年にスタートさせるにしても、そのためには、21年度のトップリーグをどう位置づけるかを明確にする必要がある。

 この正月は、11日に新装なった国立競技場で大学選手権決勝が行われる。前売りチケットの出足も好評で、それなりに観客を集めるだろう。だが、代表の母体となるトップリーグの開幕戦を国立での“ラグビーデビュー”にするのではなく、昭和の時代と同じように大学ラグビーの人気を当て込んで国立に持ってくるような発想が感じられ、それ自体がすでに過去の成功体験にすがって、後ろ向きな印象を与える。しかも、来年の秋以降に、W杯で「にわかファン」となった人たちを受け入れる器が、いまだに準備されていない現状は、ラグビーを魅力的なコンテンツとしてプッシュするには不十分。

 いつまでもW杯の「感動」だけで人気を維持できるほど、スポーツ界の競争は甘くない。

 ラグビー界は、実りの年の翌年に、いきなり正念場を迎えるのである。

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