“天皇”金田正一さんの意外な素顔…豪放、豪快なイメージと真逆で、繊細な人だった
「投手はスタミナ」が口癖で、食事にもこだわった。宿舎の食事は「栄養に偏りがある」とあまり口にせず、大量に肉や野菜などの食材を買い込んで「金田鍋」と呼ばれるキムチ鍋やスキヤキなどを自分で作って食べていた。とはいえ、ひとりで鍋をつつくのはわびしいのだろう。若い選手がカネさんの部屋に呼ばれ、「どんどん食え」と言われるのだが、食事はすでに食堂で済ませていることが多かった。でも「腹いっぱいです」なんてとても言えない。「うまいです」と言いながら鍋を平らげるしかなかった。
長丁場のキャンプになると、わざわざ自宅から自分の枕と布団を宿舎に持ち込んでいた。旅館にカネさんサイズの布団がなかったことも一因だが、いつもと違う物だとよく眠れないという。意外と神経質なところがあった。
車は「目が疲れる」「腰に悪い」という理由で決して自分では運転せず、移動の際は専属の運転手をつけた。当時、そんなことをしていたのは、カネさんと長嶋さんと王さんの3人だけだった。
「投手は走れ」が持論でよく走った。キャンプでは必ず1時間走ってから投球練習を行うのがルーティン。私は短距離が得意だったが、カネさんは中、長距離で力を発揮した。触発されて巨人の投手は競うように走るようになった。川上監督は大投手のカネさんには別メニューを許可していた。だから好きな練習ができた。もちろん、早く帰ってしまうことはあるが、ヒマさえあれば走っていた。