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森雅史サッカージャーナリスト

佐賀県出身。久留米大付設高から上智大。サッカーダイジェスト編集部を皮切りに多くのサッカー雑誌の編集に携わり、2009年の独立後も国内外精力的に取材を続けている。「Football ZONE」「サッカー批評web」などに寄稿。FM佐賀で「木原慶吾と森雅史のフットボールニュース」。「J論プレミアム」「みんなのごはん」を連載中。「日本蹴球合同会社」代表。著者写真は本人提供。

井原正巳〈3〉森保ジャパンのW杯優勝を信じる「決まった時は戦友たちと最高の酒で祝いたい

公開日: 更新日:

井原正巳さん(元日本代表DF/58歳)

【2】からつづく)

 今の日本代表を見つめていると、私たちの時代とはまさに隔世の感があります。

 8大会連続でワールドカップ出場を決め、当たり前のように世界の強豪を相手に互角の戦いを演じている。何より心強いのは、森保一監督自らが今のチームを「史上最強だ」と断言し、選手たちも言葉だけではなく、本気でワールドカップ優勝という世界の頂を狙えると考えていることです。

 かつての私たちは、ワールドカップの舞台に立つこと自体が果てしない夢物語で、そこでどう戦い、どう勝つかなんて想像もつきませんでした。 初出場の1998年ワールドカップ・フランス大会で戦ったジャマイカでさえ、相手選手の半数が海外リーグでプレーしているという事実に圧倒され、日常のレベルの差を突きつけられたものです。

 しかし、時代がどれほど移り変わろうとも、勝負事における鉄則は変わりません。

 2026年大会はアメリカ、カナダ、メキシコの3カ国共催という、サッカー史上でも類を見ない未知の領域に突入します。広大なエリアを移動する距離、東西で3時間もの時差、地域ごとの気候の激しい変化、そして参加国数の増加に伴う過密な試合日程……。

 想像を絶する難しさが待ち構えているはずです。

 こうした幾多の困難を乗り越えるために必要なのは、最終的に「最高の準備」をどれだけ「徹底して尽くせるか」という一点に集約されます。

 事前の準備こそが、全ての結果を支配すると言っても過言ではないでしょう。

 今の代表チームを見渡すと、怪我に苦しんでいる選手が少なくありません。特にDF冨安健洋についてですが、アビスパ福岡で私が監督をしていた頃、10代にして既に主軸として目覚ましい活躍を見せていました。

 当時は怪我とは無縁でした。まるで鉄人のような選手だと思っていました。でも英プレミアリーグという極めて強度が高く、世界最高峰と言われる舞台で戦い続けることは、20代の若者の体に想像以上の負担を強いていたのでしょう。

 もともと非常に繊細なタイプで思慮深い性格の持ち主です。なのでひとつの怪我をきっかけに体全体のバランスを崩し、別の箇所に負担が掛かって新たな怪我をしてしまうーーという悪循環に陥っているのかもしれません。

 私自身もフランス大会の直前、大きな怪我に見舞われてしまい、本大会に間に合わせなければならないという猛烈な焦燥感とプレッシャーに押し潰されそうになりました。 あの頃、今の選手たちのように、怪我をした時のメンタルの保ち方や最新のリカバリーメソッドが確立されていたわけではありませんでした。

 後輩たちは怪我を単なる不運として嘆くのではなく、「自分の足りない部分を徹底的に強化するためのポジティブな充電期間」として捉え直す知性と強さを持っています。

優勝したら日本のスポーツ文化が根底から変わる

 冨安も、今の苦境を糧にして焦らずにしっかりと自分を鍛え直せば、必ずまた一段上の、世界を驚かせるようなレベルに達し、ピッチで躍動してくれると信じています。

 監督と選手の信頼関係も、こうした逆境において大きな鍵となります。 たとえワールドカップの初戦に100%の状態で間に合わなかったとしても、その選手が大会を通じてチームに不可欠と監督が信じ、本人がそれに応える覚悟があれば、代表メンバーに組み込む勇気ある決断も必要です。

 交代枠の増加や高度に専門化されたメディカル体制など、今の代表には選手を多角的に支える強固な仕組みが整っています。森保監督もあらゆるリスクと可能性を想定しつつ、緻密な準備を進めているはずです。

 もし、日本代表が本当にワールドカップで優勝という偉業を成し遂げたとしたら、日本のサッカー界、ひいては日本という国全体のスポーツ文化が根底から変わるでしょう。

 かつて私たちが「2050年までに優勝する」というJFA(日本サッカー協会)の宣言として聞いた時、それはあまりに遠い、幻想に近い未来の話でした。ところが、今の分厚い選手層と洗練されたスタッフワーク、そして世界で戦う個々の力を集結させれば、それは決して実現不可能な絵空事ではありません。

 頼もしい後輩たちにアドバイスなど、私にできることはもうありません。 監督、スタッフ、そして選手たちが互いを極限まで信じ抜き、世界一の準備をして大会に臨み、私たちサッカー界の人間だけでなく、日本中の人々が信じて後押しすることが、勝利の女神を手繰り寄せる唯一の道なのだと思います。

 ワールドカップ優勝という、私たちが現役時代に命を懸けて戦っても、夢にさえ見られなかった大目標を森保ジャパンが、現実のものとして見せてくれることを心から期待しています。

 優勝が決まったその時は、かつての戦友たちと共に盛大に、そして最高の酒で祝いたいものですね。(おわり)

(聞き手=森雅史/日本蹴球合同会社、絹見誠司/日刊ゲンダイ

▽井原正巳(いはら・まさみ) 1967年9月18日生まれ。滋賀・甲賀市出身。守山高から筑波大。2年次に日本代表初選出。卒業して日産自動車(現横浜M)に入社。磐田、浦和でもプレーした。02年シーズンを最後に引退した。88年1月のUAE戦で代表デビュー。98年W杯フランス大会3試合に主将としてフル出場した。柏コーチ、福岡監督などを歴任。25年には韓国Kリーグ・水原三星のコーチを務めた。

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