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森雅史サッカージャーナリスト

佐賀県出身。久留米大学附設高から上智大。サッカーダイジェスト編集部を皮切りに多くのサッカー誌の編集に関わり、2009年の独立後も日本代表の国内外の活動に密着取材を続けている。決め細やかな取材と精緻な筆致に定評がある。日本蹴球合同会社代表。森保監督との共著「『森保ノート』の真実。」(幻冬舎)が話題を集めている。

中山雅史氏〈1〉ポイチ(森保一)は「柔和で優しいだけ」じゃない。目が笑っていない時がある

公開日: 更新日:

中山雅史さん(元日本代表FW/58歳)

 ポイチ(森保一)とは、ハンス・オフトが日本代表監督に就任した際、初めてチームメイトになりました。

 正直に言うと、当時は「森保って誰だろう?」という印象でした。彼は高校を卒業してマツダに入っていたので大学選抜、日本B代表といったカテゴリーで一緒にプレーした経験がなかったからです。

 オフトが突如として彼を抜擢した時、周囲も「どんな選手なんだ?」と注目していました。

 森保と一緒に初招集され、初先発することになったのが、1992年5月31日のアルゼンチン戦でした。前年度のコパ・アメリカで優勝したメンバーが8人先発するほどの豪華メンバーを揃えていました。

 しかも(旧)国立競技場という大舞台ですから「さぞかし緊張しているだろう」と思って声をかけました。

 大観衆を前にして僕自身が高揚感とプレッシャーで押し潰されそうになっていた時、アップ中の森保に「大丈夫か? 固くなってないか?」と聞きました。

 すると彼は、事もなげに「いえ、全然大丈夫ですよ」と落ち着き払った表情で答えたんです。

 あの時のなにひとつ慌てる様子もなく、むしろ自信に満ちた姿を見て「なんだ、こいつ、僕よりも全然落ち着いてるじゃないか」と驚かされたものです。

 この時が「日本代表の不動のボランチ森保一」が誕生した瞬間でした。 ピッチに立った彼は、特に状況判断に優れていました。僕がどちらかと言えば落ち着きのないタイプ(笑)だったのに対し、森保は常にチームのバランスを沈着冷静に見ていました。

 1993年10月、日本代表はカタール・ドーハで集中開催されたワールドカップ・アメリカ大会のアジア最終予選に臨みました。

 宿泊先のホテルに設置されたリラックスルームで森保、福田正博、井原正巳と僕の4人は一緒にトランプの大貧民をしたりして緊張をほぐしていました。

 森保は周囲の変化を察知する能力が非常に高かったので同室だったキャプテンの柱谷哲二さんが、責任感でピリピリしていることを敏感に感じ取り、あえて一人にしてあげるような気遣いを見せていました。

 僕たちみたいな「バカ」と付き合って笑っている方が、彼にとっても精神的な解放になっていたのかも(笑)。福田さんがよく森保をいじっていましたが、森保もだんだんと言い返せるようになり、結構ブラックなことを言っていた記憶もあります。

 今の日本代表を率いる彼を見ていても、当時の「察知能力」や「人当たりの良さ」が、十二分に活きていると感じます。選手一人ひとりの特性を把握し、その選手に応じた言葉を投げかけている。

 もっとも森保という男は、決して「柔和で優しいだけ」の人間ではありません。あいつ、目が笑っていない時があります(笑)。

 穏やかな口調の裏に非常に熱いもの、そして勝負師としての冷徹な一面を秘めています。

 サンフレッチェ広島の監督時代の映像でした。 ハーフタイムのロッカールームで戦えていない選手を名指しで叱咤し、激昂する彼の映像を見たことがありますが、あんな熱量を見せられたら選手は反応せざるを得ません。

 今の代表でも、ここ一番の決断力には凄みを感じます。どんなに重用していた選手でも、居場所がなくなったと結論付けた瞬間、メンバーからスパっと外す。まさにその象徴と言えるでしょう。

 代表選手に対して「俺が選ぶんじゃない、お前らが俺に選ばせてくれ」と説いているそうですが、それは選手に覚悟を迫る言葉でもあります。

 (3月の英遠征)スコットランド戦やイングランド戦の戦い方を見ても、相手を徹底的にスカウティングした上で自分たちの形を変えながら、あえてブロックを組んでカウンターで仕留めるような多様性を手に入れています。

 それは「勝つために何が必要か」を逆算して準備してきた結果でしょう。 かつてのチームメイトが、日本代表を「ワールドカップ優勝」と言えるレベルまで引き上げた。その覚悟と手腕には、心から敬意を表します。

 今の彼なら本当に新しい景色を見せてくれるのではないか、と期待しています。

 そもそも僕たちの時代は、ワールドカップに出場することさえも「夢物語」でした。それが今の選手たちは言葉だけでなく、本気で世界一を信じている。

 その雰囲気を作り上げたのは、紛れもなく森保一という男の覚悟です。

 彼は監督として、スタッフの専門性を最大限に活かすマネジメントを行っています。ディフェンス、オフェンス、セットプレーなど各分野の専門コーチに任せるべきは任せ、自分はチームの方向性を指し示す。

 強豪イングランドを構成するプレミアリーグで活躍する選手たちに対峙しても、しっかりと対応して勝利という結果を導く。

 これが今の代表の自信に繋がっています。

 本大会直前の調整についても、森保監督は慎重かつ戦略的に考えているはずです。過去の大会で、直前のテストマッチで好成績を収めたことが逆に慢心を生んだ例もありました。

 今の代表選手たちには「こんなはずじゃない、もっと厳しいんだ」という思いを常に持たせながら、準備をさせていることでしょう。

 森保なら、未知の領域となる北中米3カ国共同開催大会の困難さも乗り越えてくれると心から信じています。(【2】につづく)

(聞き手=森雅史/日本蹴球合同会社 絹見誠司/日刊ゲンダイ)

▽ 中山雅史(なかやま・まさし) 1967年生まれ。静岡・岡部町(現藤枝市)出身。藤枝東高から筑波大。卒業後にヤマハ(現磐田)に入社。陽気なキャラクターとJリーグ創設年の93年秋のW杯最終予選での活躍で全国区人気を博した。94年、磐田のJリーグ昇格によってJリーグデビュー。スポーツヘルニアに悩まされたが、95年以降はエースFWとして活躍。98年、00年Jリーグ得点王。97年のJ初制覇の原動力となった。札幌、JFL沼津を経て磐田のコーチ、沼津の監督など歴任。25年年末に沼津のCROに就任した。90年に日本代表デビュー。94年W杯予選で「ドーハの悲劇」を経験する。98年W杯のジャマイカ戦で得点を奪い、日本人W杯初ゴーラーとなった。02年日韓W杯メンバー入りして本大会のロシア戦に出場。「ドーハの悲劇」「フランスW杯」「日韓W杯」を経験した唯一の選手となった。

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