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元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

フローラン・ダバディ〈前編〉トルシエ時代の“予言”が現実に…森保ジャパンは世界一を口にできる段階まで来た

公開日: 更新日:

フローラン・ダバディさん(2002年日韓W杯 トルシエ監督通訳/ジャーナリスト)

 1998年フランス大会から8大会連続でW杯に出場している日本代表。グループリーグ初突破は2002年の日韓大会だった。自国開催という特別な雰囲気の中、フィリップ・トルシエ監督率いる日本はグループを1位で通過。R16でトルコに敗れたが、世界相手に勇敢に戦ったのは確か。24年前の一歩があったからこそ、今の森保ジャパンが「世界一を狙う」と公言できるまでに成長したのだ。トルシエ監督のパーソナルアシスタント兼通訳を務めたフローラン・ダバディ氏に日本という国、そして日本サッカーの24年間の進化と課題を語ってもらった──。

  ◇  ◇  ◇

 ──24年前は背番号10候補の中村俊輔(日本代表コーチ)が落選。しかもトルシエ監督が発表会見を欠席するという異例の事態が起きました。

「直前にノルウェーで親善試合があって、フィリップはいったんフランスに戻り、ベルギーなど対戦国の視察に行くつもりだったのかな、と思います。ただ、本人の中では俊輔を落とすことを決めた時点で、そのことが話題のほとんどを占めるのが分かっていた。『後ろ向きな話ばかりになるなら興味ない。勘弁してくれよ』ということで、来日しなかったんでしょう。
フィリップ自身も会見で代表監督が直々にメンバーを読み上げないのはよくないということを十分理解していました。ジレンマも抱いていたはず。でも当時のメディアは容赦なかった(苦笑)。今でこそ『外れた選手のことはコメントしません』『選ばれた選手やW杯の戦い方について聞いてください』という監督の意向に理解を示しますけど、そういう雰囲気ではなかった。それでボイコットという苦渋の決断を下したんでしょう。会見に1人で出席した木之本さん(興三=団長)さんには申し訳なかったと思いますが」

 ──W杯のメンバー選考に関して賛否両論が起きるのは全世界共通です。

「フランス代表のディディエ・デシャン監督は外した選手のことは一切、コメントしませんよ。バロンドールを取ったカリム・ベンゼマなどスターを何人も外しているけど、W杯の戦いに何の関係もないから説明しない。24年前は日本サッカー協会(JFA)に抗議が殺到したようですけど、ようやく世界基準になったのかなという気がしますね」

永住権審査に落とされた

 ──トルシエ監督は当時「日本から50~100人の選手が欧州に行けば、日本代表も強くなる」と口癖のように言っていましたが、24年が経って本当にその通りになりました。

「私は1970年代後半から欧州サッカー最前線で育った愛好家。祖父がパリ・サンジェルマンの創設者の1人というバックグランドもあって、世界基準の価値観を微力ながら日本にもたらしたいと思っていました。それはフィリップも同じ。日本サッカーの発展に情熱を傾けていましたし、欧州移籍加速の布石を打ったと考えています。日本社会全体を見ると『失われた30年』という言葉があるように、倦怠感や虚脱感がありました。が、『このままではいけない』という危機感が近年、強まりつつあるように感じます。『自ら道を切り開かないと将来が約束されない』と考える人も増えましたが、スポーツ界の動きはより早かった。野望を持っている選手が海外に行って高みを目指すというのは必要不可欠ですからね。この流れの成果として、日本代表が2026年W杯で16強の壁を越えて史上初の8強入りできれば、社会にもたらすインパクトは大きいでしょう」

 ──2022年カタールW杯でドイツ、スペインを撃破し、その後の3年間でブラジル、イングランドから金星を挙げるなど、日本サッカーの躍進は世界も驚かせています。

「そうですね。日本人は細かいし、ハードワークもできるし、組織力もあるし、非常に仕事のできる国民だと思います。もちろん創造性やリスク管理、責任の取り方といった部分では世界基準に達していないところもありますが、仕事力自体は世界トップクラス。JFAやJリーグが組織としてこの20~30年に遂行した仕事は、他国の協会が50年かけてもできないと思います。日本サッカーがこの先、さらに成長していこうと思うなら、グラスルーツの指導レベル向上が必要ですね。プロやエリートのところには世界基準の外国人指導者が数多くいますけど、草の根のところは外国人が入りこめない。国の移民政策とぶつかってしまうんです。実は私のところには年間数10人のフランス人コーチから『日本の子供に指導したい』という話が来るんですが、ビザを取る方法がないので叶わない。私自身も永住権を取れたのは2010年。2002年W杯で日本代表に貢献しながら審査で落とされたことも(苦笑)。シビアな環境があるのは事実ですが、海外に目を向けつつ育成のテコ入れを図らないと、JFAが掲げる2050年W杯優勝は難しい。それはひとつ強調しておきたいところです」

 ──2018年ロシアW杯で西野朗監督が指揮を執って以来、日本代表は日本人監督体制が続いていますが、Jリーグでは今も外国人監督も数多く働いています。外からの目線はやはり必要ですね。

「フランスにしても、サッカーの底上げをしたのはフランス人だけではないんです。ボスニア出身のイビチャ・オシム監督もフランスで選手をしていましたし、北アフリカ出身の関係者も多い。移民自体も日本の2%に対してフランスは15%ですから、その差ももちろん大きいですけど、外国人の多彩な目線からアプローチし続けていくことの重要性を忘れないでほしいですね」(【後編】につづく)

(聞き手=元川悦子/サッカージャーナリスト、絹見誠司/日刊ゲンダイ)

▽フローラン・ダバディ 1974年11月1日生まれ、52歳。パリ市内の16区で育つ。高校を卒業してパリの国立東洋語文化学院の日本語学科に学び、静岡大に短期留学。同学院を卒業して98年に来日。映画雑誌「プレミア日本語版」の編集に携わる。99年から02年日韓W杯終了までトルシエ監督のパーソナル・アシスタントと通訳を務めた。その後はテレビのキャスター、ラジオ番組のナビゲーターなどを務めて他に執筆、講演など多方面で活躍中。フランスの文化、芸術、言語、ライフスタイルに深い知見を持ち、日仏の国際交流の懸け橋としての活動にも注力している。

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