「峠しぐれ」葉室麟著

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 物語の舞台は、岡野藩領内の峠の茶屋。半平という40過ぎの亭主と、「峠の弁天様」と慕われる半平の女房・志乃が10年ほど前、老夫婦から店を引き継いでつつましく暮らしていた。ある初夏の早朝、志乃は3人の子を連れて疲れた様子の家族が峠を越えようとしているのを目撃し、休んでいくように声をかける。聞けば、隣国の結城藩の城下で味噌問屋を営んでいたが、商売が立ち行かなくなり夜逃げをしてきたとのこと。同業者に力になってもらうべく岡野城下を目指しているのだという。心配しつつその旅立ちを見送った2人は、翌日その親子連れが盗みの疑いで捕まり、10日も前に起きた盗賊騒ぎの一味だという嫌疑がかけられていることを知る。同情した志乃がその家族のために証言したことで、静かだった2人の生活に大きな波が立ち始める─―。

「蜩ノ記」で直木賞を受賞した著者による時代小説。物語の進行につれ、峠の茶屋を営むことになった夫婦の封印していた過去が見えてくる。生きていく中で思うに任せなかった人それぞれの事情が、時を経て解きほぐされていく姿が温かく描かれている。

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