「峠しぐれ」葉室麟著

公開日: 更新日:

 物語の舞台は、岡野藩領内の峠の茶屋。半平という40過ぎの亭主と、「峠の弁天様」と慕われる半平の女房・志乃が10年ほど前、老夫婦から店を引き継いでつつましく暮らしていた。ある初夏の早朝、志乃は3人の子を連れて疲れた様子の家族が峠を越えようとしているのを目撃し、休んでいくように声をかける。聞けば、隣国の結城藩の城下で味噌問屋を営んでいたが、商売が立ち行かなくなり夜逃げをしてきたとのこと。同業者に力になってもらうべく岡野城下を目指しているのだという。心配しつつその旅立ちを見送った2人は、翌日その親子連れが盗みの疑いで捕まり、10日も前に起きた盗賊騒ぎの一味だという嫌疑がかけられていることを知る。同情した志乃がその家族のために証言したことで、静かだった2人の生活に大きな波が立ち始める─―。

「蜩ノ記」で直木賞を受賞した著者による時代小説。物語の進行につれ、峠の茶屋を営むことになった夫婦の封印していた過去が見えてくる。生きていく中で思うに任せなかった人それぞれの事情が、時を経て解きほぐされていく姿が温かく描かれている。

(双葉社 1600円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  2. 2

    「高額療養費」負担引き上げ、患者の“治療諦め”で医療費2270億円削減…厚労省のトンデモ試算にSNS大炎上

  3. 3

    萩原健一(6)美人で細身、しかもボイン…いしだあゆみにはショーケンが好む必須条件が揃っていた

  4. 4

    おすぎの次はマツコ? 視聴者からは以前から指摘も…「膝に座らされて」フジ元アナ長谷川豊氏の恨み節

  5. 5

    “年収2億円以下”マツコ・デラックスが大女優の事務所に電撃移籍? 事務所社長の“使い込み疑惑”にショック

  1. 6

    歪んだ「NHK愛」を育んだ生い立ち…天下のNHKに就職→自慢のキャリア強制終了で逆恨み

  2. 7

    僕に激昂した闘将・星野監督はトレーナー室のドアを蹴破らんばかりの勢いで入ってきて…

  3. 8

    日本にむしろ逆風…卓球王国中国で相次ぐトップ選手の世界ランキング離脱と進む世代交代

  4. 9

    「(来季の去就は)マコト以外は全員白紙や!」星野監督が全員の前で放った言葉を意気に感じた

  5. 10

    迷走するワークマン…プロ向けに回帰も業界では地位低下、業績回復には厳しい道のり