著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「波に乗る」はらだみずき著

公開日: 更新日:

 はらだみずきはサッカー小説で知られる作家だが、これは異なる。ここで描かれるのはなんとサーフィンだ。サッカーだけの作家ではないのである。引き出しはまだまだあるということだ。いや、サーフィンは物語の背景にあるだけで、この長編の中心ではない。では中心にあるのは何か。

 大学を卒業して就職した会社を1カ月で辞めた文哉のもとに、父親の死の知らせが届くところからこの物語は始まっていく。まず、文哉と父親がどういう親子だったかを書いておけば、文哉が幼いときに両親が離婚。彼は姉と一緒に父親に引き取られる。姉が家を出て行ってからは父親と2人暮らし。会話もない生活だった。

 大学入学と同時に文哉は親元を離れて自立し、それ以降はめったに家にも帰らず、そのうちに父親は会社を辞めて南房総に引っ越していく。その知らせをもらったときも深くは考えなかった。彼らはそういう親子である。

 父親と息子の男同士というのはそういうものなのかもしれないが、文哉と父はあまり話をしたことがない。だから父が何を考えていたのか、文哉にはわからない。父の住んでいた海辺の町に行って、人生の晩年にどんな暮らしをしていたのか、何を考えていたのか、そこで彼は知ろうとする。そうすると知らない父親の顔が次々に立ち上がってくる。つまりこれは、息子が父を理解する物語なのだ。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  2. 2

    ドジャース大谷翔平が直面する米国人の「差別的敵愾心」…米野球専門誌はMVPに選ばず

  3. 3

    Snow Man目黒蓮と佐久間大介が学んだ城西国際大メディア学部 タレントもセカンドキャリアを考える時代に

  4. 4

    ポンコツ自民のシンボル! お騒がせ女性議員3人衆が“炎上爆弾”連発…「貧すれば鈍す」の末期ぶりが露呈

  5. 5

    高市新政権“激ヤバ議員”登用のワケ…閣僚起用報道の片山さつき氏&松島みどり氏は疑惑で大炎上の過去

  1. 6

    クマが各地で大暴れ、旅ロケ番組がてんてこ舞い…「ポツンと一軒家」も現場はピリピリ

  2. 7

    田村亮さんが高知で釣り上げた80センチ台の幻の魚「アカメ」赤く光る目に睨まれ体が震えた

  3. 8

    自維連立が秒読みで「橋下徹大臣」爆誕説が急浮上…維新は閣内協力でも深刻人材難

  4. 9

    ラウールが通う“試験ナシ”でも超ハイレベルな早稲田大の人間科学部eスクールとは?

  5. 10

    「連合」が自民との連立は認めず…国民民主党・玉木代表に残された「次の一手」