著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「店長がいっぱい」山本幸久著

公開日: 更新日:

 自戒を込めて書くが、書評家の注目は新人作家に集中しやすい。それは新しい才能と出合うことが本を読む喜びのひとつであるからだ。しかしそのために中堅作家の作品への注目がやや遅れてしまう傾向は否定できない。

 例えば山本幸久だ。「笑う招き猫」で小説すばる新人賞を受賞したのが2003年。もう10年が過ぎている。その間、「凸凹デイズ」という傑作をはじめ、水準以上の小説をずっと書き続けている。各社からその作品が刊行されているということは、それなりに読者の支持があるということでもあり、私ごときが言うことでもないが、もっと注目されていい作家だと思う。

 本書は丼チェーンの7人の店長の、奮闘する日々を描く連作集で、相変わらず読ませる。バイト店員に厳しく接しすぎる古株店員に悩まされたり、仕事を覚えようとしない老人店員に振り回されたり、本社の2代目が正体を隠して働きにくるサポートをしたり、店長は大変なのである。

 各短編をつなぐのは、本社フランチャイズ事業部の霧賀久仁子だ。31歳、独身。店長が店の運営について悩んでいると電話1本で飛んでいき、居酒屋であれこれ愚痴を聞いて一緒に悩み、具体的な提案をする。それが彼女の日常だ。仕事が出来るので嫉妬もされるが、霧賀久仁子は誰に対してもそう接するので彼女を慕う人は多い。いわば本書の狂言回しだが、とてもいい味を出している。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    安青錦の大関昇進めぐり「賛成」「反対」真っ二つ…苦手の横綱・大の里に善戦したと思いきや

  2. 2

    長嶋一茂は“バカ息子落書き騒動”を自虐ネタに解禁も…江角マキコはいま何を? 第一線復帰は?

  3. 3

    トリプル安で評価一変「サナエノリスク」に…為替への口先介入も一時しのぎ、“日本売り”は止まらない

  4. 4

    "お騒がせ元女優"江角マキコさんが長女とTikTokに登場 20歳のタイミングは芸能界デビューの布石か

  5. 5

    【独自】江角マキコが名門校との"ドロ沼訴訟"に勝訴していた!「『江角は悪』の印象操作を感じた」と本人激白

  1. 6

    今田美桜に襲い掛かった「3億円トラブル」報道で“CM女王”消滅…女優業へのダメージも避けられず

  2. 7

    実は失言じゃなかった? 「おじいさんにトドメ」発言のtimelesz篠塚大輝に集まった意外な賛辞

  3. 8

    99年シーズン途中で極度の不振…典型的ゴマすりコーチとの闘争

  4. 9

    27年度前期朝ドラ「巡るスワン」ヒロインに森田望智 役作りで腋毛を生やし…体当たりの演技の評判と恋の噂

  5. 10

    今田美桜が"あんぱん疲れ"で目黒蓮の二の舞いになる懸念…超過酷な朝ドラヒロインのスケジュール