「モナドの領域」筒井康隆著

公開日: 更新日:

 肩口からスパッと切断されたような女の片腕が、河川敷で発見された。腕にはなぜかバラバラ事件の陰惨さが感じられず、静かで、美しくさえあった。この事件を発端に、奇妙なことが起こり始める。

 現場に近いベーカリーでは、発見された腕にそっくりのバゲットが売り出されて評判になり、行列ができた。店の常連である美大の教授の様子が突然おかしくなり、奇妙な力を発揮しだした。先生は神様なのか? 平凡な町に降臨した「ゴッド」は、造物主。人間がつくり出した神を超越した存在だ。庶民一人一人の個人的事情から、宇宙の真理まで、何もかも知っている。

 ゴッドはある意図をもって戦略的にメディアに登場し、有識者との哲学問答を繰り広げて、宇宙の真理を解き明かしていく。ゴッドは決して怒らず、親しみさえ感じさせる。しかし、人間の所業には決して介入しない。創造の時点で予定された宇宙の調和を厳然と守っている。ゴッドいわく。「おまえさんたちの絶滅は実に美しい」。ゴッドは人間を、戦争からも破滅からも、救ってはくれないのだ。

 ゴッド降臨の理由が分かってくるにつれて、片腕事件の宇宙的真相も明らかになる。なんとも壮大で不可思議な物語。(新潮社 1400円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    松任谷由実が矢沢永吉に学んだ“桁違いの金持ち”哲学…「恋人がサンタクロース」発売前年の出来事

  2. 2

    ヤクルト「FA東浜巨獲得」に現実味 村上宗隆の譲渡金10億円を原資に課題の先発補強

  3. 3

    どこよりも早い2026年国内女子ゴルフ大予想 女王候補5人の前に立ちはだかるのはこの選手

  4. 4

    「五十年目の俺たちの旅」最新映画が公開 “オメダ“役の田中健を直撃 「これで終わってもいいと思えるくらいの作品」

  5. 5

    「M-1グランプリ2025」超ダークホースの「たくろう」が初の決勝進出で圧勝したワケ

  1. 6

    出家否定も 新木優子「幸福の科学」カミングアウトの波紋

  2. 7

    福原愛が再婚&オメデタも世論は冷ややか…再燃する「W不倫疑惑」と略奪愛報道の“後始末”

  3. 8

    早大が全国高校駅伝「花の1区」逸材乱獲 日本人最高記録を大幅更新の増子陽太まで

  4. 9

    匂わせか、偶然か…Travis Japan松田元太と前田敦子の《お揃い》疑惑にファンがザワつく微妙なワケ

  5. 10

    官邸幹部「核保有」発言不問の不気味な“魂胆” 高市政権の姑息な軍国化は年明けに暴走する