「わかれ」瀬戸内寂聴著

公開日: 更新日:

 御年93歳の著者は、骨折や病気でしばらく療養していたが、今年の4月から法話を再開、意気軒高な姿を見せている。

「命ある限り小説を書く」という言葉通り、昨年の「死に支度」に続く新作の短編小説集。

 表題作は、91歳の女性画家と42歳年下のカメラマンとの交情を描いたもの。肉体関係こそないが、2人の間には明らかにエロチックな感情が流れている。そんな感情を互いに秘めながら、カメラマンは危険地帯への取材のために画家に別れを告げる。彼女にとって男から別れを持ち出されたのは、それが初めてだった。

 一方、冒頭の「山姥」では、四国の小さな町で人付き合いを避けて暮らす老婆と死に場所を求めて町にやって来た男との奇妙な出会いと別れが描かれる。続く「約束」は亡き吉行淳之介の思い出がつづられ、武田泰淳(「紹興」)や重信房子(「面会」)なども登場する。長い人生の中で出会った、家族、恋人、友人たちを闊達自在にフィクションとノンフィクションのあわいに溶かし込んでいく。全9編、いずれも艶々しさに満ちているのはさすが。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  2. 2

    35年前の大阪花博の巨大な塔&中国庭園は廃墟同然…「鶴見緑地」を歩いて考えたレガシーのあり方

  3. 3

    高市内閣の閣僚にスキャンダル連鎖の予兆…支持率絶好調ロケットスタートも不穏な空気

  4. 4

    葵わかなが卒業した日本女子体育大付属二階堂高校の凄さ 3人も“朝ドラヒロイン”を輩出

  5. 5

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  1. 6

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  2. 7

    隠し子の養育費をケチって訴えられたドミニカ産の大物種馬

  3. 8

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  4. 9

    高市早苗「飲みィのやりィのやりまくり…」 自伝でブチまけていた“肉食”の衝撃!

  5. 10

    維新・藤田共同代表にも「政治とカネ」問題が直撃! 公設秘書への公金2000万円還流疑惑