日刊ゲンダイDIGITAL

  • facebook  
  • twitter  
  • Facebook Messenger

見えない「あした」だけを見続けるボクサー・ジョーの「今」

「魂の言葉」辰吉丈一郎著

 題名を見ただけで見たくなる映画。来週末封切りの「ジョーのあした」は、まさにその典型だろう。監督は阪本順治。かつて赤井英和主演の「どついたるねん」で初監督を果たした人気映画人だが、その彼がこれまで私的にカメラを向けて記録し続けてきたのが辰吉丈一郎。その20年間の蓄積を念入りに編集したドキュメンタリーが、「ジョーのあした」というわけだ。

 とはいえいたずらに伝説化するわけでなく、近所の空き地や公園で子どもを遊ばせながらのインタビューなど、いたって気取りのない姿を捉えつづける。聞けば関係者への取材なども折々に撮影したのだそうだが、完成した映画は潔く、ケガに悩まされたボクサー・ジョーの人間的な横顔だけに焦点を当て、40代半ばに達したいまなお現役をやめず、どこか浮世離れした風情の「いま」を映し出す。いわば辰吉は不自由な目で見えない「あした」だけを見つづけてきた男なのだ。

 辰吉丈一郎著「魂の言葉」(ベースボール・マガジン社 1500円+税)は「ほらふき」とも揶揄されたジョーの言行録。冒頭、「ジョー、泣いてもなんでもええから負けを認めるな」という幼いころの父の言葉がすべてを物語る。「勝つとか勝たんとかの問題やない。とにかく負けを認めるな」――、そんな親父の厳命に背中を押されつづけたジョーの「あした」がどこか物悲しい。
〈生井英考〉


日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

最新のBOOKS記事