見えない「あした」だけを見続けるボクサー・ジョーの「今」

公開日: 更新日:

「魂の言葉」辰吉丈一郎著

 題名を見ただけで見たくなる映画。来週末封切りの「ジョーのあした」は、まさにその典型だろう。監督は阪本順治。かつて赤井英和主演の「どついたるねん」で初監督を果たした人気映画人だが、その彼がこれまで私的にカメラを向けて記録し続けてきたのが辰吉丈一郎。その20年間の蓄積を念入りに編集したドキュメンタリーが、「ジョーのあした」というわけだ。

 とはいえいたずらに伝説化するわけでなく、近所の空き地や公園で子どもを遊ばせながらのインタビューなど、いたって気取りのない姿を捉えつづける。聞けば関係者への取材なども折々に撮影したのだそうだが、完成した映画は潔く、ケガに悩まされたボクサー・ジョーの人間的な横顔だけに焦点を当て、40代半ばに達したいまなお現役をやめず、どこか浮世離れした風情の「いま」を映し出す。いわば辰吉は不自由な目で見えない「あした」だけを見つづけてきた男なのだ。

 辰吉丈一郎著「魂の言葉」(ベースボール・マガジン社 1500円+税)は「ほらふき」とも揶揄されたジョーの言行録。冒頭、「ジョー、泣いてもなんでもええから負けを認めるな」という幼いころの父の言葉がすべてを物語る。「勝つとか勝たんとかの問題やない。とにかく負けを認めるな」――、そんな親父の厳命に背中を押されつづけたジョーの「あした」がどこか物悲しい。
〈生井英考〉


最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  2. 2

    「高額療養費」負担引き上げ、患者の“治療諦め”で医療費2270億円削減…厚労省のトンデモ試算にSNS大炎上

  3. 3

    萩原健一(6)美人で細身、しかもボイン…いしだあゆみにはショーケンが好む必須条件が揃っていた

  4. 4

    おすぎの次はマツコ? 視聴者からは以前から指摘も…「膝に座らされて」フジ元アナ長谷川豊氏の恨み節

  5. 5

    “年収2億円以下”マツコ・デラックスが大女優の事務所に電撃移籍? 事務所社長の“使い込み疑惑”にショック

  1. 6

    歪んだ「NHK愛」を育んだ生い立ち…天下のNHKに就職→自慢のキャリア強制終了で逆恨み

  2. 7

    僕に激昂した闘将・星野監督はトレーナー室のドアを蹴破らんばかりの勢いで入ってきて…

  3. 8

    日本にむしろ逆風…卓球王国中国で相次ぐトップ選手の世界ランキング離脱と進む世代交代

  4. 9

    「(来季の去就は)マコト以外は全員白紙や!」星野監督が全員の前で放った言葉を意気に感じた

  5. 10

    迷走するワークマン…プロ向けに回帰も業界では地位低下、業績回復には厳しい道のり