「ディーパンの闘い」異境で経験する移民たちの絶望と孤独

公開日: 更新日:

 中東難民問題の急展開に欧州が揺れている。特に理想の福祉社会といわれてきた北欧諸国の偏狭ぶりには優等生のみみっちい正体を見たようで鼻白んだ向きもあるだろう。そこへ公開されるのが来週末封切りの仏映画「ディーパンの闘い」である。

 内戦に敗れてフランスに亡命した反政府軍兵士が、偽装結婚の妻子とともにパリ郊外の荒れた団地で経験する移民の苦労話。そう聞けば貧乏話のようだが、商業性重視のカンヌ映画祭で大賞を得ただけに娯楽作品としての工夫も抜け目ない。凝った筋立てを巧みに演出し、移民が言葉も風習も肌の色も違う異境でいかに苦しく腹立たしい思いを強いられるかの絶望と孤独を実感させる。その肌感覚の生々しさこそが本作の真骨頂だろう。

 それにしても昨今の移民問題が従来のリベラル派の人権尊重主義に痛棒を食らわせているのは確かなこと。

 安達智史著「リベラル・ナショナリズムと多文化主義」(勁草書房 7000円+税)はグローバル化とローカル化が同時に進む現代固有の状況を念頭に、イギリスと大陸ヨーロッパを比較しつつ深く考察した若手研究者の社会思想論。硬派の学術書だが、「リベラル」と「ナショナリズム」の合体という異例の思想を丹念に論じて読みごたえあり。イスラムのスカーフ装束への仏英の許容度の差の背景など一般にも面白い話題が豊富だ。

〈生井英考〉



最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    JリーグMVP武藤嘉紀が浦和へ電撃移籍か…神戸退団を後押しする“2つの不満”と大きな野望

  2. 2

    広島ドラ2九里亜蓮 金髪「特攻隊長」を更生させた祖母の愛

  3. 3

    悠仁さまのお立場を危うくしかねない“筑波のプーチン”の存在…14年間も国立大トップに君臨

  4. 4

    田中将大ほぼ“セルフ戦力外”で独立リーグが虎視眈々!素行不良選手を受け入れる懐、NPB復帰の環境も万全

  5. 5

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  1. 6

    FW大迫勇也を代表招集しないのか? 神戸J連覇に貢献も森保監督との間に漂う“微妙な空気”

  2. 7

    結局「光る君へ」の“勝利”で終わった? 新たな大河ファンを獲得した吉高由里子の評価はうなぎ上り

  3. 8

    飯島愛さん謎の孤独死から15年…関係者が明かした体調不良と、“暗躍した男性”の存在

  4. 9

    巨人がもしFA3連敗ならクビが飛ぶのは誰? 赤っ恥かかされた山口オーナーと阿部監督の怒りの矛先

  5. 10

    中日FA福谷浩司に“滑り止め特需”!ヤクルトはソフトB石川にフラれ即乗り換え、巨人とロッテも続くか