「マジカル・ガール」乱歩ファン監督の罪と狂気の物語

公開日: 更新日:

 欧米の大学で日本研究を教える教授たちに会うと決まって出るのがアニメとマンガの話。彼らがオタク趣味だというのではない。日本研究科に来る最近の学生の関心がアニメばかりで、文学はおろか技術や経済にさえ興味を示さないという嘆きなのだ。

 そんな話を図らずも思い出したのが来週末封切りのスペイン映画「マジカル・ガール」。日本の少女アニメに憧れる12歳の娘と暮らす男やもめの父親――という設定と題名から大方が予想するのは、コスプレに夢中の娘に振り回されたお人よしの父親の姿といったほほ笑ましいお話だろう。

 ところが映画はこの設定を正反対の角度から描く。妻をなくし、失業し、今度は娘まで失いかける男が偶然のきっかけで関わる罪と狂気の物語。かつてルイス・ブニュエルがそうだったように、皮肉な目を通して人の世のくぼみにぽっかり口を開けた暗い深淵が覗きこまれるのだ。

 監督のカルロス・ベルムトは江戸川乱歩を鍾愛する日本通だそうだが、筆者が想起するのは獅子文六著「娘と私」(筑摩書房 1400円+税)。ユーモア作家だった著者の人生を描いて人気ドラマにもなった作品だが、実は暗く陰気な挿話ばかりで、病死したフランス人の妻の忘れ形見である娘をどう扱っていいか困惑する男の姿が描かれる。共通点は明るい題名と暗い内容のズレ。そういえば「ティファニーで朝食を」なんて例もありました。〈生井英考〉


最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  2. 2

    片山さつき財務相“苦しい”言い訳再び…「把握」しながら「失念」などありえない

  3. 3

    阪神異例人事「和田元監督がヘッド就任」の舞台裏…藤川監督はコーチ陣に不満を募らせていた

  4. 4

    阪神・佐藤輝明にライバル球団は戦々恐々…甲子園でのGG初受賞にこれだけの価値

  5. 5

    高市首相「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」どこへ? 中国、北朝鮮、ロシアからナメられっぱなしで早くもドン詰まり

  1. 6

    “文春砲”で不倫バレ柳裕也の中日残留に飛び交う憶測…巨人はソフトB有原まで逃しFA戦線いきなり2敗

  2. 7

    阪神・佐藤輝明の侍J選外は“緊急辞退”だった!「今オフメジャー説」に球界ザワつく

  3. 8

    ドジャースからWBC侍J入りは「打者・大谷翔平」のみか…山本由伸は「慎重に検討」、朗希は“余裕なし”

  4. 9

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  5. 10

    古川琴音“旧ジャニ御用達”も当然の「驚異の女優IQの高さ」と共演者の魅力を最大限に引き出すプロ根性