「プラハの墓地」ウンベルト・エーコ著、橋本勝雄訳

公開日: 更新日:

 舞台は、19世紀末のヨーロッパ。主人公のシモーネ・シモニーニは、イタリア人の父とフランス人の母を持ち、祖父に育てられた希代の美食家。祖父譲りの激しいユダヤ人嫌いで、文書偽造の技術の腕を買われて、史上最悪の偽書といわれる「シオン賢者の議定書」を生み出した。

 ロシアのポグロムやナチスによるユダヤ人抹殺計画を招いた偽書は、どのようにして生まれたのか。イタリア統一運動期のトリノからガリバルディのシチリア遠征、普仏戦争、さらにドレフェス事件に至るまで、反ユダヤ主義が席巻したヨーロッパの歴史を主人公の回想録を基に描く。

 物語は、プラハのユダヤ人墓地での謀議という偽書を核に、フリーメイソンの秘密結社や各国情報部、イエズス会などに加えて、主人公の二重人格や記憶喪失、オカルト的な儀式なども盛り込まれており、読者はあちこちに仕掛けられたストーリーの仕掛けをほどきながら、シモニーニの視点から歴史改変の現場に立ち合うことになる。

 先月死去した著者が残した本書は、今の時代に吹き荒れるレイシズムや差別主義の発現と不思議なほど符合している。(東京創元社 3500円+税)




【連載】ベストセラー早読み

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    今オフ日本史上最多5人がメジャー挑戦!阪神才木は“藤川監督が後押し”、西武Wエースにヤクルト村上、巨人岡本まで

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希にリリーバーとしての“重大欠陥”…大谷とは真逆の「自己チューぶり」が焦点に

  3. 3

    日本ハム最年長レジェンド宮西尚生も“完オチ”…ますます破壊力増す「新庄のDM」

  4. 4

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  5. 5

    初の黒人力士だった戦闘竜さんは難病で入院中…「治療で毎月30万円。助けてください」

  1. 6

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  2. 7

    ドジャース佐々木朗希もようやく危機感…ロッテ時代の逃げ癖、図々しさは通用しないと身に染みた?

  3. 8

    ドジャース大谷翔平が“本塁打王を捨てた”本当の理由...トップに2本差でも欠場のまさか

  4. 9

    “条件”以上にFA選手の心を動かす日本ハムの「圧倒的プレゼン力」 福谷浩司を獲得で3年連続FA補強成功

  5. 10

    吉沢亮は業界人の評判はいいが…足りないものは何か?