「バベル九朔」万城目学著

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 主人公は雑居ビル「バベル九朔」の管理人をしながら、小説を書いている。といっても、新人賞の1次選考も突破できない作品ばかり。電気、水道メーターをチェックし、殺鼠剤をまき、蛍光灯を取り換え、地味な管理人生活を送っている。

 ある日、ビルの階段で、黒いワンピース、黒タイツ、黒サングラスの女に遭遇する。女は彼に尋ねた。

「扉は、どこ?」

 今はなき祖父が建てたこのビルには、何か秘密があるのだろうか。カラスの化身のような妖しい女が現れてから、代わり映えしない日常に裂け目が生じた。

 祖父が描いたという青い小さな油絵に触れたとたん、彼は水にのみ込まれ、気がつくと湖のほとりにいた。

 ぽつんと一人そこにいた少女の導きで、天高く伸びたもう一つのバベルを目にする。「みんなの願いがかなう場所なんだよ、ここは」。死んだ祖父の声がする。予想もつかない展開が読者を異界へ引きずり込んでいく。

 小説家になる前、実際にビルの管理人をしていたという作者のリアルな実体験と、奇想天外な発想が混然一体となった奇書。

 夢にかけてみたものの、本当に何とかなるのだろうか。もうあきらめようか。揺れる若者の心に寄り添う青春エンタメでもある。(KADOKAWA 1600円+税)


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