著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「パンドラの少女」M・R・ケアリー著、茂木健訳

公開日: 更新日:

 いやあ、面白いぞ。読み始めたらやめられず、一気読みは必至という面白さだ。

 全世界に奇病がまん延し、文明社会が崩壊した未来が舞台の長編である。その奇病とは、キノコが脳に寄生すると人間としての精神を失い、「餓えたやつら」と化して人間を襲うようになるというものだ。

 主人公は、ロンドンから80キロ離れた陸軍基地の地下の独房に監禁されている10歳の少女メラニー。なぜ彼女が監禁されているかといえば、キノコに脳を完全に支配されておらず、人間としての正常な知能を有しているからだ。奇病にかかりながらも、いまだゾンビと化していないのはなぜか。それを解明すれば、この大厄災を人類が生き延びるチャンスが生まれてくる。というわけで、メラニーをはじめとする子供たちは研究対象として監禁されている。

 ところが「廃品漁り」と呼ばれるならず者の集団が基地を襲ってきて、メラニーは教師、科学者、兵士2人の計5人で、南イングランドの臨時首都をめざして逃げ出さざるを得なくなる。緊迫感あふれるその逃避行を描いたのが本書だ。

 このストーリーから明らかなように、SFではあるけれど、その逃避行の波瀾万丈のディテールが中心となっているので(アクションも鮮やかだ)、ミステリー読者もたっぷりと堪能できる。壮大なラストまで一気読みの傑作だ。(東京創元社 2000円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    今オフ日本史上最多5人がメジャー挑戦!阪神才木は“藤川監督が後押し”、西武Wエースにヤクルト村上、巨人岡本まで

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希にリリーバーとしての“重大欠陥”…大谷とは真逆の「自己チューぶり」が焦点に

  3. 3

    日本ハム最年長レジェンド宮西尚生も“完オチ”…ますます破壊力増す「新庄のDM」

  4. 4

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  5. 5

    初の黒人力士だった戦闘竜さんは難病で入院中…「治療で毎月30万円。助けてください」

  1. 6

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  2. 7

    ドジャース佐々木朗希もようやく危機感…ロッテ時代の逃げ癖、図々しさは通用しないと身に染みた?

  3. 8

    ドジャース大谷翔平が“本塁打王を捨てた”本当の理由...トップに2本差でも欠場のまさか

  4. 9

    “条件”以上にFA選手の心を動かす日本ハムの「圧倒的プレゼン力」 福谷浩司を獲得で3年連続FA補強成功

  5. 10

    吉沢亮は業界人の評判はいいが…足りないものは何か?