著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「大統領の冒険」キャンディス・ミラドー著 カズヨ・フリードランダー訳

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 第26代アメリカ大統領セオドア・ルーズベルトは1912年の3期目の大統領選に負け、その翌年、アマゾンの奥地に旅立つ。本書は、1600キロにもわたるアマゾンの支流を南米の地図に記入することになる、その探検を描いたノンフィクションである。

 凄まじい書だ。密林には危険な動物がいっぱいいて、それらが次々に襲いかかってくる。獰猛な蚊もいれば、吸血性の生物もいる。さらに急流で船が何度も流され、そのたびに食料が紛失し、飢えと病気に苦しめられる。さらに毒を塗った矢を放ってくる先住民までいるのだ。その迫力満点の探検行のディテールが圧巻。これは、ナショナル・ジオグラフィック誌の記者を務めたことがある著者の第1作だが、鮮やかな描写とダイナミックな筆致が素晴らしい。そのために、100年前の冒険がリアルによみがえってくる。

 セオドアの旅に同行するブラジルのロンドン大佐(アマゾンの測量遠征に生涯をささげた熱血漢)をはじめとする個性豊かな人物が脇を固めているのも、この探検行に奥行きを与えている。

 特に、父親と一緒にアフリカ狩猟旅にも同行し、このアマゾン探検行にも参加したセオドアの次男カーミットの後日譚が切ない。この無鉄砲な次男に幸せな後半生は待っていないのだ。急流に流されたりして父親に怒られはしたものの、アマゾンで生き生きとしていた姿を知っているだけに、この後日譚は悲しく、深い印象を残している。(エイアンドエフ 2600円+税)

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