著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

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 文化6年といえば1809年、江戸幕府開府から200年経っているが、その時代、80歳以上で御公儀の御役目に就いている旗本は20人。一番上は98歳の腰物奉行、というから驚く。江戸時代といえば、もっと若い年齢で隠居するものというイメージを持っていたが、80歳過ぎてなお現役の役職に就いているとはびっくりだ。

 本書の前半には、そういう年寄りが次々に出てくる。徒目付の片桐直人は「爺殺し」といわれているので、そういう年寄りが絡む仕事は彼のところにくる。

 どういうわけか年寄りは、片桐直人に尋ねられると何でも話しだすのである。

 目付の仕事は幕臣の監察であり、徒目付はそのための下調べに奔走する。しかしここで描かれるのは、その表の仕事ではなく、「頼まれ御用」だ。たとえば、酒席で刀を抜き、人を惨殺したとする。本人が罪を認めればそれで事態は落着だが、被害者の身内にしたら、なぜそんなことをされなければならなかったのか、その理由を知りたいと思うのが人情というものだ。こういうときに、目付組頭のところに、動機を調べてほしいとの依頼が来て、そして片桐直人の出番になる。つまり直人の仕事は、犯人捜しではなく、なぜそんなことをしたのか、という人の心の探索である。実に秀逸な設定というべきだろう。

 直木賞受賞後第1作だが、時代小説の傑作として堪能されたい。(新潮社 1600円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

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