ソング・オブ・ザ・シー 情緒と幻想的物語が魅力

公開日: 更新日:

「アニメは日本の文化」などという言葉が最近はむなしい。宮崎アニメは他国での評価も高いし市場の成功も確実だが、絵柄ひとつでもアニメにはもっと広い可能性があるはず。現に十数年前に公開されたフランスの「ベルヴィル・ランデブー」やノルウェーの人形アニメ「ピンチクリフ・グランプリ」などは大人が何度見ても飽きない「目の愉しみ」にあふれている。

 いきなり冒頭から力が入ってしまったのは現在公開中のアイルランドのアニメ「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」を見たからだ。

 妻を亡くした灯台守と残された幼い兄妹。彼らの人生を子どもの視点から描き出す物語。といっても言葉だけではわかりづらいが、絵柄はどことなく見覚えのある懐かしさ。これはなんだろう? と疑問に思っていたらトム・ムーア監督は1963年製作の東映動画「わんぱく王子の大蛇退治」に強く影響されたのだという。東映動画はかつて宮崎駿も在籍した老舗。ただし宮崎自身はソ連のアニメに感化されていたともいわれる。要するにアニメは「動く絵」の力で国境を超えるのだ。

 とはいえ「ソング・オブ・ザ・シー――」は単なる国際市場向けの商品ではない。むしろアイルランドならではの情緒と幻想的な物語性こそが魅力の源泉。作画を担当したザ・カーツーン・サルーンが絵を描き、アイルランドの童話作家コルマーン・オラハリーが話を書いた絵本「トーィン クアルンゲの牛捕りとクーフリンの物語」(アイルランドフューシャ奈良書店 2300円+税)を見ればそれが実感できるはず。〈生井英考〉

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  2. 2

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  3. 3

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  4. 4

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  5. 5

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  1. 6

    国分太一問題で日テレの「城島&松岡に謝罪」に関係者が抱いた“違和感”

  2. 7

    今度は横山裕が全治2カ月のケガ…元TOKIO松岡昌宏も指摘「テレビ局こそコンプラ違反の温床」という闇の深度

  3. 8

    国分太一“追放”騒動…日テレが一転して平謝りのウラを読む

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    大谷翔平のWBC二刀流実現は絶望的か…侍J首脳陣が恐れる過保護なドジャースからの「ホットライン」