「ティエリ・トグルドーの憂鬱」仏極右政党・国民戦線の躍進の背景

公開日: 更新日:

 フランス人といえば「夏のバカンス」を何より大事にする。それというのも伝統的に労組が強く、国民の大多数が「公務員並み」に守られてきたおかげだ。しかしそれがこの四半世紀、グローバル化の波に洗われて急速に崩壊。解雇禁止の不文律は新自由主義政策で骨抜きにされ、組合は弱体化し格差拡大で失業率が急上昇した。話題になった極右政党・国民戦線の躍進はこうした背景あっての話なのだ。

 そんなフランスの現実を生々しく映し出して大評判なのが公開中の映画「ティエリー・トグルドーの憂鬱」。実直一点張りの労働者が人員整理でクビ。物語は主人公ティエリーが失対事業所の担当者に苦情を申し立てる場面から始まる。まるでTVドキュメンタリーのようなカメラワークや登場人物と思ったら、主役のベテラン俳優ヴァンサン・ランドン以外は大半が素人。撮影もドキュメンタリーの経験しかない若手を起用したという。

 下流にすべり落ちてゆく主人公が自尊心をずたずたにされる前半の緊張感は筆舌に尽くしがたく、物語の後半、やっとスーパーの警備員に雇われたティエリーを通して今度は社会全体の貧困とあえぎが淡々と描かれる。彼が働くスーパーの店内に張り巡らされた監視カメラの寒々とした映像はその象徴だろう。日本映画が走りがちな笑いのカットなど一切なく、さりとて型通りの下流社会批判とも違う現代文明論となっている。

 カナダの社会学者D・ライアンの「膨張する監視社会」(青土社 2200円+税)は貧困と監視カメラの跋扈する社会の関係を鋭く見通したリスク社会論だ。

〈生井英考〉

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  2. 2
    大谷2戦連続6号弾 先輩の雄星も驚く「鈍感力」発揮!名門球団の重圧や水原問題もどこ吹く風

    大谷2戦連続6号弾 先輩の雄星も驚く「鈍感力」発揮!名門球団の重圧や水原問題もどこ吹く風

  3. 3
    長渕剛が誹謗中傷に《具合が悪い》と告白…《話があるなら、来てほしい》と性被害告発の元女優に呼びかけ

    長渕剛が誹謗中傷に《具合が悪い》と告白…《話があるなら、来てほしい》と性被害告発の元女優に呼びかけ

  4. 4
    松本人志に文春と和解の噂も、振り上げた拳は下ろせるか? 告発女性の素性がSNSで暴露され…

    松本人志に文春と和解の噂も、振り上げた拳は下ろせるか? 告発女性の素性がSNSで暴露され…

  5. 5
    松本人志“性的トラブル報道”へのコメント 優木まおみが称賛され、指原莉乃が叩かれるワケ

    松本人志“性的トラブル報道”へのコメント 優木まおみが称賛され、指原莉乃が叩かれるワケ

  1. 6
    広末涼子“不倫ラブレター”の「きもちくしてくれて」がヤリ玉に…《一応早稲田だよな?》

    広末涼子“不倫ラブレター”の「きもちくしてくれて」がヤリ玉に…《一応早稲田だよな?》

  2. 7
    佐々木朗希にメジャー球団は前のめりも…ロッテ首脳陣が依然として計算できない脆弱ボディー

    佐々木朗希にメジャー球団は前のめりも…ロッテ首脳陣が依然として計算できない脆弱ボディー

  3. 8
    巨人の得点圏打率.186は12球団最低…チャンスに滅法弱く、立場が危うくなった打者3人の名前

    巨人の得点圏打率.186は12球団最低…チャンスに滅法弱く、立場が危うくなった打者3人の名前

  4. 9
    阪神・岡田監督ようやく取材解禁の舞台裏 もう怖いものなし?今後の報道に忖度生じる可能性

    阪神・岡田監督ようやく取材解禁の舞台裏 もう怖いものなし?今後の報道に忖度生じる可能性

  5. 10
    大谷は徹底した個人主義、思考回路も米国人…ゴジラ松井とはメンタリティーに決定的差異

    大谷は徹底した個人主義、思考回路も米国人…ゴジラ松井とはメンタリティーに決定的差異