北上次郎
著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「光炎の人」(上・下) 木内昇著

公開日: 更新日:

 木内昇は2011年、「漂砂のうたう」で直木賞を受賞した作家だが、今回の舞台は明治。徳島の葉タバコ農家に生まれた音三郎の波乱に満ちた半生を描く長編である。音三郎は大阪に出て、東京に移り、最後は満州に渡っていく。

 少年の頃から機械に興味を持ち、どうやって動くのか、その仕組みに胸を躍らせる音三郎はやがて電気に関心を抱き、無線機開発に取り組んでいく。

「巷で売られている電球やソケットは、未だ輸入品が主であった。明治20年代に東京の三吉電機工場が口金を作って日本初の電球が誕生したものの、出来は異国製品に遠く及ばなかった」という時代であるから、音三郎の苦労は並大抵ではない。

 さらに、シベリア出兵、日中戦争に突き進んでいく時代であるから、製品開発が政治的に利用されかねない恐れもある。音三郎は純粋に、誰よりも先に、一番、優れたものを生み出したいと思っているだけなのだが、時代の変化がそれを許さないということだ。下巻の真ん中あたりに、技術者は、「自分が作り上げたその製品なり施設が、世界中で活用され、時代を超えて残ることを人知れず祈り続ける生き物なのだ」というくだりが出てくる。

 音三郎を真ん中に置き、個性豊かな脇役たちを周囲に配し、そういう技術者の誇りと、しかし、時代に翻弄される悲劇と時代のうねりを、この長編は鮮やかに描いている。(KADOKAWA 各1600円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    西武フロントの致命的欠陥…功労者の引き留めベタ、補強すら空振り連発の悲惨

    西武フロントの致命的欠陥…功労者の引き留めベタ、補強すら空振り連発の悲惨

  2. 2
    西武の単独最下位は誰のせい? 若手野手の惨状に「松井監督は二軍で誰を育てた?」の痛烈批判

    西武の単独最下位は誰のせい? 若手野手の惨状に「松井監督は二軍で誰を育てた?」の痛烈批判

  3. 3
    巨人・小林誠司の先制決勝適時打を生んだ「死に物狂い」なLINE自撮り動画

    巨人・小林誠司の先制決勝適時打を生んだ「死に物狂い」なLINE自撮り動画

  4. 4
    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

  5. 5
    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

  1. 6
    日本ハムは過去2年より期待できそう 新外国人レイエスが見せつけた恐るべきパワー

    日本ハムは過去2年より期待できそう 新外国人レイエスが見せつけた恐るべきパワー

  2. 7
    大谷はアスリートだった両親の元、「ずいぶんしっかりした顔つき」で産まれてきた

    大谷はアスリートだった両親の元、「ずいぶんしっかりした顔つき」で産まれてきた

  3. 8
    【中日編】立浪監督が「秘密兵器」に挙げた意外な名前

    【中日編】立浪監督が「秘密兵器」に挙げた意外な名前

  4. 9
    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

  5. 10
    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗