「黒い巨塔 最高裁判所」瀬木比呂志著

公開日: 更新日:

 主人公は、最高裁判所事務総局の民事局付になったばかりの笹原駿。東京地方裁判所民事部から米国大学の研究員を経験し、3年間の地方勤務を経て事務総局に赴任した彼は、今までとは全く違う、司法行政の世界を目の当たりにする。

 特に最高裁判所長官というポストに位置する須田謙造の権力は群を抜いていた。彼の意向ひとつで、気に入らない人間のキャリアを葬り去ることは簡単だったため、多くの職員が目立たぬように息を殺して過ごすか、ご機嫌をとるしかなかったのだ。

 ソ連の思想統制を彷彿させる雰囲気に違和感を覚えた笹原だったが、ある日裁判官協議会の進行担当局付に任命される。そこで取り上げられる議題は原発訴訟。水面下ではただならぬ力が働いていた……。

「絶望の裁判所」(講談社現代新書)などで裁判所の現状を鋭く突いた著者による、本格的な権力小説。フィクションという断り書きがありつつも、描いている裁判所の構造は現実そのものだ。戦前の司法省の上意下達のヒエラルキー体制を受け継いでしまった裁判所が、司法の役目を果たせなくなる恐ろしさが伝わってくる。(講談社 1600円+税)

【連載】ベストセラー早読み

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    3Aでもボロボロ…藤浪晋太郎の活路を開くのは阪神復帰か? 日本ハム、オリックス移籍か

    3Aでもボロボロ…藤浪晋太郎の活路を開くのは阪神復帰か? 日本ハム、オリックス移籍か

  2. 2
    本来は「9月左翼構想」だが…大谷が打てば打つほど手術明けの外野守備は前倒しの気配

    本来は「9月左翼構想」だが…大谷が打てば打つほど手術明けの外野守備は前倒しの気配

  3. 3
    訪日客狙い“奥日光2泊3日400万円ツアー”のアテが外れた理由

    訪日客狙い“奥日光2泊3日400万円ツアー”のアテが外れた理由

  4. 4
    「いまだに、ああいうスタンスは何なのだろうと…」当時の山田GMが首をひねった図太い神経

    「いまだに、ああいうスタンスは何なのだろうと…」当時の山田GMが首をひねった図太い神経

  5. 5
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  1. 6
    真美子夫人も共同オーナーに? 大谷「25億円別荘購入」の次は女子プロバスケチーム買収か

    真美子夫人も共同オーナーに? 大谷「25億円別荘購入」の次は女子プロバスケチーム買収か

  2. 7
    大谷「DH独占」打ちまくり、週間MVPも…他の野手を休ませられないロバーツ監督のジレンマ

    大谷「DH独占」打ちまくり、週間MVPも…他の野手を休ませられないロバーツ監督のジレンマ

  3. 8
    3人兄妹の末っ子だから年上と遊ぶ機会が多く、彼らと遊ぶだけの体力もあった

    3人兄妹の末っ子だから年上と遊ぶ機会が多く、彼らと遊ぶだけの体力もあった

  4. 9
    東山紀之社長の鉄面皮「SMILE-UP.」の体質は旧態依然…進まぬ被害者補償に批判と失望

    東山紀之社長の鉄面皮「SMILE-UP.」の体質は旧態依然…進まぬ被害者補償に批判と失望

  5. 10
    当時日本ハムGMだった山田正雄氏が「この性格はプロでやる上でプラスになる」と確信した決定的瞬間

    当時日本ハムGMだった山田正雄氏が「この性格はプロでやる上でプラスになる」と確信した決定的瞬間