「浜の甚兵衛」熊谷達也著
明治三陸地震が起こった明治29年。三陸の仙河漁港で沖買船の商売をしていた菅原甚兵衛は、自分が沖に出ているうちに大きな津波が釜戸の集落を襲ったことを知り、愕然とする。
甚兵衛が戻った村の人々はすべて海にもっていかれ、がれきに埋まっていたのは遺体ばかり。生き残ったのは、たまたまそのとき村から出ていた者だけだった。
惨状を目の当たりにした甚兵衛は、妾の子として、親子2代で裕福な魚問屋マルカネの社長にぶら下がって、どこか開き直りながら生きてきた今までの生き方に疑問を覚えるようになった。その後、海上の事故で船を失ったことを契機に、大きな借金を抱えつつも、一発逆転を狙って北洋でのラッコ・オットセイ漁に出ることを企てるのだが……。
架空の港町・仙河海を舞台に、自らの生き方を貫いていく男の成長物語。東日本大震災を機に、著者が描いてきた「仙河海」シリーズの出発点になる作品にあたる。
男気あふれる主人公の姿が魅力的に描かれている。(講談社 1700円+税)