『すぐに「できません」と言う人たち』榎本博明著/PHP選書(選者:佐藤優)
キャリアは偶然の出来事に影響を受ける
『すぐに「できません」と言う人たち』榎本博明著/PHP選書
企業人材育成の第一人者である榎本博明氏による人事管理に関する優れた実用書だ。
榎本氏は、人間の社会を複雑系とみている。だから、こういうインプットをすれば、こういうアウトプットが出てくるという線形でキャリアを考えてはいけないと戒める。そこから導かれるのがキャリアのカオス理論だ。
<キャリアのカオス理論では、私たちのキャリアは予期しない偶然の出来事に思いのほか影響を受けているということを強調する。この理論の提唱者である心理学者のブライトとプライヤーの大規模な調査によると、大学生の70%が自分のキャリアは予期しない出来事の影響を受けているという。/私自身も自分の人生を振り返ってみると、あの出来事や出会いが大きかったというようなことがあるが、それがどうして起こったかを改めて考えてみても、偶然の積み重ねの上に起こっているとしか思えない>
評者の場合も、2002年に鈴木宗男事件に連座して「鬼の特捜」(東京地検特捜部)に逮捕されることがなければ、職業作家になるなどという人生の転換はなかった。
榎本氏は、偶然の出来事の重要性を説く。
<ほんの小さな出来事がキャリア発達に対して決定的な影響を及ぼすこともある。ある人から言われたひと言が、その後の人生を大きく方向づけるということも、実際によくあることだ>
最近は若い世代だけでなく、中高年でもコスパ、タイパを重視する人が増えている。仕事の成果に直接つながらない読書や人との出会いに、実はキャリアを伸ばす貴重な機会が潜んでいるのであるが、過度に合理的思考をする人にはそれが見えなくなってしまう。
キャリアには運がつきものだ。しかし、運は掴もうと努力しない人のところにはやってこない。自分の担当分野ではない仕事であっても、上司に言われれば引き受け、新しい経験をすることによって運を掴むチャンスが増える。外交官時代にはいろいろ理不尽な仕事もあったが、今になって振り返ると、その一つ一つから評者は多くのことを学んだ。常に前を向いて歩んだほうが愉快な人生を送ることが出来る。 ★★★
(2026年3月3日脱稿)



















