「火葬秘史 骨になるまで」伊藤博敏氏

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「火葬秘史 骨になるまで」伊藤博敏氏

 経済事件を数多く取材し、日本社会のグレーゾーンに切り込んできたジャーナリストが、本作で取り上げたテーマは「火葬」。執筆のきっかけは2018年、斎場大手の東京博善を傘下に持つ広済堂をめぐって買収合戦が繰り広げられたことだった。都内の火葬を独占している東京博善が標的であることは明らかだった。

「迷惑施設としてタブー視されてきた火葬場が資本市場で売買される。昔は考えられなかったことです。最終的にMBO(マネジメントバイアウト)、つまり経営者が会社を買って上場を廃止するという、金融の世界のモデルにのみ込まれていきます。火葬場が『普通の会社』になった、時代は変わったんだなあ、と思いましたね。その変化を書いてみよう、書くならもう少し掘り下げて、火葬全体に目を向けてみようと思ったんです」

 葬送の歴史をひもとくと、普通の日本人がほとんど知らない火葬の実情が明らかになっていった。江戸時代までの日本は土葬社会だったが、土地が貴重な江戸には火葬寺がいくつもあったこと。「死は穢れ」とする考え方が火葬場従事者の差別につながっていたこと。度重なるコレラの流行が火葬を普及させたこと……。そして明治20年代には火葬率が20%を超え、大正時代に50%に近づいた。

 明治20年創業の東京博善を軸に火葬の歴史をたどると、ケガレが商売に転化し、近代的なビジネスに変容していくさまがよく分かる。東京の火葬が民間に委ねられてきた特殊事情も見えてくる。明治の政商・木村荘平、昭和の怪商・桜井義晃、物言う株主・村上世彰、中国人実業家・羅怡文と、登場人物も多士済々。全8章のうちの3章を割いて展開する火葬ビジネスノンフィクションは読み応え十分。

「火葬場に対する意識が変わり、『火葬するビジネスの場』になったわけですから、必要なら火葬料金を値上げするし、葬祭業にも進出する。買収合戦を経て東京の火葬は新たな局面に入りました。批判もありますが、料金がクリアになり、お坊さんと葬儀社と火葬場が三位一体となっていた曖昧な世界を変えました。それはそれで、よかったんじゃないかと思いますけどね」

 火葬のビジネス化とともに、葬送の簡素化も進んでいる。特にコロナ禍以後は家族葬が増え、葬儀に参列する機会がめっきり減った。菩提寺の家族墓も減る一方。「薄葬」の流れは止まりそうにない。本当にこれでいいのだろうか。本作は後半で新しい葬送の試みをいくつも取り上げ、弔いのあり方を問い直している。

「樹木葬、散骨、合葬墓、納骨堂、一般墓。どういう形であれ、弔う気持ちと弔う場所は必要だと思います。そこに行って先祖や両親、友達に手を合わせ、会話をする。大切な時間です。『孤』になりがちな社会で『縁』をつないでいくために、私自身は葬儀も墓も必要だと考えています。人間だけが持つ葬送の文化を失いたくないですね」

「終活」ばやりの昨今だが、「骨になったあと」の落ち着き先を、時流に流されて、あるいは経済合理性優先で選んではいないだろうか。よく考えてみる必要がありそうだ。 (小学館 1980円)

▽伊藤博敏(いとう・ひろとし) 1955年福岡県生まれ。東洋大学文学部哲学科卒業後、84年からフリーのジャーナリストに。経済事件をはじめとしたノンフィクション分野における圧倒的な取材力に定評がある。著書に「黒幕 巨大企業とマスコミがすがった『裏社会の案内人』」「同和のドン 上田藤兵衞『人権』と『暴力』の戦後史」「『カネ儲け』至上主義が陥った『罠』」など。


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