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太田治子作家

1947年生まれ。「心映えの記」で第1回坪田譲治文学賞受賞(86年)、近著に「星はらはらと 二葉亭四迷の明治」(中日新聞社)がある。

桜が咲いたら、この本を手にスズメに会いにいこう

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「にっぽん スズメ歳時記」写真/中野さとる(カンゼン 1400円+税)

 東京の南の外れの街に住むようになって、かれこれ1年半が過ぎた。それからというもの、スズメを見た記憶がない。日本のスズメに危機が訪れたのか。娘の万里子にそのことを言うと、都心の勤め先の昼休みによくスズメを見かけると笑った。並木の植え込みのあたりを、チョンチョンと2、3羽でせわしなく何かをついばんでいるというのである。

「にっぽん スズメ歳時記」は、スズメ写真家、中野さとる氏の初作品集である。スズメの四季折々の写真が、どのページにも解説とともに隙間なく載っている。エサを親にねだったり、水を飲んだりする姿は、大変に愛らしい。水浴びや砂浴びをしている写真もある。水しぶきを上げて川の中にいるスズメは、懸命に泳ぐ水泳選手のようだ。

 その一方で、小競り合いの最中のスズメはどうもいただけない。あられもなく羽を膨らませて、相手に飛びかかっていこうとしている。ふっくらと円満な感じのするスズメにこのような攻撃性もあることを、写真を通して教えられるのだった。

 春になるとスズメも一層、元気になる。満開の桜の木にスズメがいるのを、何度も見かけたことがある。人間と同じように花が咲いたのがうれしくて遊んでいるのだろうと、ほほ笑ましく眺めていた。しかし、ただ浮かれていたわけではなかったのだ。

 この本には桜の蜜をくちばしで吸うスズメの写真とともに、これは「盗蜜」と呼ばれているという解説が載っていた。桜の花の蜜を吸うと、そのままポンと地面に花を落として飛び去る。よろしくない行為である。それでも花の中の姿はかわいい。美しくもあることが、中野さんの写真からよくわかる。桜が咲いたら、この本を手に花の中のスズメに会いにいこう。

【連載】生き生きと暮らす人生読本

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