• facebook  
  • twitter  
  • Facebook Messenger
北上次郎
著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「蘇我の娘の古事記」周防柳著

 乙巳の変から壬申の乱までを描く古代史小説だ――と書くだけでは、古代史に関心のない人はふーんと思うだけだろう。ところが、これほど面白い小説はそうあるものではない。王位継承の争いが続く動乱の時代を、生きる夢と希望と恋を、みずみずしく描く長編なのである。

 たとえば、物語のちょうど真ん中あたりに、ヤマドリとコダマの兄妹が藤原鎌足と戦うシーンがある。蘇我入鹿の亡霊が現れたかと思うと、コダマの口から吐き出された煙に乗って、身に甲冑をまとった斉明女帝が現れる。躍動感あふれるシーンで、読んでいるだけでぞくぞくしてくる。

 そうか、このシーンを真っ先に紹介すると、本書がファンタジーであるかのような誤解を与えてしまうかもしれない。違うのである。言い伝えや伝承、伝説などが随所に挿入されるとはいえ、これは徹底してリアルな物語である。にもかかわらず、この戦いが浮いていないことが素晴らしい。むしろこのシーンが挿入されることによって、物語に活気が生まれていることに留意。さらに、古事記の作者は誰か、という壮大な謎を背景にした物語でもあるので、読み始めるとやめられなくなる。超おすすめの一冊だ。

 この作者は古代史小説をもう1冊書いているが、その「逢坂の六人」(こちらは古今和歌集成立の裏側を描く長編だ)も面白いことを最後に書いておきたい。(角川春樹事務所 1700円+税)

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

最新のBOOKS記事

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    関西圏から勧誘 花咲徳栄の岩井監督に聞く「選手集め」

  2. 2

    12年を経て…リア・ディゾンが明かした「黒船」の重圧と今

  3. 3

    国会議員は7割支持でも…安倍首相を襲う「地方票」の乱

  4. 4

    秋田・金足農の中泉監督が語る 球児の体力と練習の今昔

  5. 5

    逸材ゴロゴロ 夏の甲子園“契約金1億円”ドラ1候補7人の名前

  6. 6

    広島・丸と西武・浅村めぐり…巨・神でFA補強争奪戦が勃発

  7. 7

    スパイ容疑で拘束 北朝鮮に通った39歳日本人男性の行状

  8. 8

    安倍3選確実といわれる総裁選で国民に問われていること

  9. 9

    根尾、藤原だけじゃない 大阪桐蔭ドラフト候補10人の秘密

  10. 10

    【漁業権開放】漁村の資源管理が混乱 生活基盤が崩壊する

もっと見る