著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「処刑の丘」ティモ・サンドベリ著、古市真由美訳

公開日: 更新日:

 相変わらず北欧ミステリーの翻訳が続いているが、このブームのおかげでこれまで知らなかった作家、作品を読むことが出来るのは喜ばしい。本書もそういう一冊だ。

 フィンランドのミステリーはレーナ・レヘトライネンの諸作がすでに紹介されているので本書が初ではないが、この作家は本邦初紹介。デビューは1990年というからもうベテランである。

 本書の舞台は、フィンランド南部の都市ラハティ。時代は、1920年代。この舞台設定が本書のキモだろう。というのは19世紀初頭から帝政ロシアの大公国だったフィンランドは1917年に独立を宣言するものの、ロシアのボリシェビキの支援を受けた赤衛隊と、ドイツの軍事力を後ろ盾にした白衛隊との間で戦闘になり、内戦状態になったとの経緯があるので(ヨーロッパでもっとも悲惨な内戦だったといわれているらしい)、いまだにその爪痕が残っているのだ。

 主人公の警官オッツォ・ケッキはどちらにも所属せず支援せず、あくまでも公正な警察官であろうとするが、内戦の勝利者である白衛隊が絶対的な権力を握る社会で、公正であり続けるのはなかなか難しい。かつて虐殺の舞台となった丘で青年の死体が発見されるのが本書の発端だが、上からの圧力で自由な捜査が出来ないのである。そのケッキの苦悩と地味な捜査を、本書は静かに描いていく。

 異色の警察小説として読まれたい。(東京創元社 1900円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  4. 4

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  5. 5

    “名門小学校”から渋幕に進んだ秀才・田中圭が東大受験をしなかったワケ 教育熱心な母の影響

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    今秋ドラフト候補が女子中学生への性犯罪容疑で逮捕…プロ、アマ球界への小さくない波紋

  3. 8

    星野源「ガッキーとの夜の幸せタイム」告白で注目される“デマ騒動”&体調不良説との「因果関係」

  4. 9

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  5. 10

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも