著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「今日のハチミツ、あしたの私」寺地はるな著

公開日: 更新日:

 30歳のヒロイン碧が仕事をやめて、故郷に帰る恋人・安西についていく話である。彼には仕事がなく、何度勤めてもうまくいかず、故郷に戻って実家の仕事を手伝うと言うのだ。碧もいまの仕事に満足しているわけでもないので、ま、いいかとついていく。

 よくある話といっていい。しかも帯には「蜂蜜を、もうひと匙」という文字がある。都会に疲れた男女が大自然に包まれる日々の中で生き甲斐を見いだしていく話、はたくさんある。またそういう話かい、と言いたくなる人がいるかもしれないが、まあ待て。そうではないのだ。物語は思わぬ方向にどんどん進んでいく。

 まず、安西の父親は結婚を認めないのである。土地を貸している養蜂家の黒江から、たまっている賃貸料を取ってくれば認めるのもやぶさかではないと言うのだ。その気もないのに。それを承知で、よおしと碧は蜂蜜園に乗り込むが、すぐに解決するほど甘くはなく、どんどんねじれていく。

 黒江の娘、女子高生の朝花の相談に乗ってあげたり、スナックのママあざみが洒落た店にしたいと言うと内装を買って出たり、このヒロインは思ってもいない方向で八面六臂の大活躍をするのである。

 黒江の賃貸料は集金できなくても碧の行動範囲はこのように次々にひろがっていく。その間、安西は終始頼りなく、おいおい、このままではおまえ捨てられるぞ、と心配になってくる。なかなか快調な小説だ。(角川春樹事務所 1400円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    国分太一コンプラ違反で無期限活動休止の「余罪」…パワハラ+性加害まがいのセクハラも

  2. 2

    クビ寸前フィリーズ3A青柳晃洋に手を差し伸べそうな国内2球団…今季年俸1000万円と格安

  3. 3

    高畑充希は「早大演劇研究会に入るため」逆算して“関西屈指の女子校”四天王寺中学に合格

  4. 4

    「育成」頭打ちの巨人と若手台頭の日本ハムには彼我の差が…評論家・山崎裕之氏がバッサリ

  5. 5

    進次郎農相ランチ“モグモグ動画”連発、妻・滝川クリステルの無関心ぶりにSNSでは批判の嵐

  1. 6

    「時代と寝た男」加納典明(19) 神話レベルの女性遍歴、「機関銃の弾のように女性が飛んできて抱きつかれた」

  2. 7

    吉沢亮「国宝」が絶好調! “泥酔トラブル”も納得な唯一無二の熱演にやまぬ絶賛

  3. 8

    ドジャース大谷「二刀流復活」どころか「投打共倒れ」の危険…投手復帰から2試合8打席連続無安打の不穏

  4. 9

    銘柄米が「スポット市場」で急落、進次郎農相はドヤ顔…それでも店頭価格が下がらないナゼ? 専門家が解説

  5. 10

    ドジャース佐々木朗希 球団内で「不純物認定」は時間の問題か...大谷の“献身投手復帰”で立場なし