「夢のなかの魚屋の地図」井上荒野著
直木賞作家の著者によるエッセー集。
ペンネームと思われがちの「荒野」という名は、作家だった父が名付けたという。もともとは頼まれて知人の息子のために名付けた名前だったが、彼の家族の反対で没になり、自分の娘に流用したらしい。何よりも困ったのは、「この名前には平凡な人生が似合わない」ということだったが、それこそが父が、この名前に託したことだったとも思える。と、亡き父を述懐する一文をはじめ、夫との日々、そして体調を崩していた母がある魚屋との出会いで元気を取り戻した話(「表題作」)など。デビューした28歳から24年分の作品を収録する。(集英社 560円+税)