傑作長編 思春期特有の妄想で世界を形成

公開日: 更新日:

 思春期の娘をもつ親は、どこまで介入すべきか。特に、社交的とはいえず、反抗的でもない、何を考えているのか、測りかねる物静かな娘に対して。

 主人公は大学に進学して親元を離れた娘。女子寮に入り、家族以外の人間と触れることで、他人との距離感を学んでいく。思春期特有の妄想力で自分だけの世界を形成しつつも、自分が何者なのかを問い続ける。

 父親は作家(ただし、1冊しか本を出していない)で外ヅラはいいがプライドも高い。評価されない自分を棚に上げ、娘の書く手紙や小説を批評し、精神的に干渉する。娘はそんな父が「自分の欠陥を娘でなおそうとしている」と看破している。

 一方、母親は夫に振り回される不満が蓄積。娘に「父のような男と結婚してはいけない」と諭す。情緒不安定で呪詛(じゅそ)を垂れる母に対し、娘は冷静だ。舞台は米国だが、日本でもよくある家族の実態をあぶり出す。また、教え子に手を出す大学教授と、その悪癖に悩んでアルコールに溺れる妻という俗物の登場が、色を添える。

 冒頭とラストのミステリアスな運びに一瞬戸惑うが、後からジワジワと効いてくる。タイトルのまがまがしさとは異なり、読後感は意外と爽やかだ。本邦初訳。

◆この本を抽選で2人にプレゼントします

応募方法=はがきに郵便番号、住所、氏名、年齢、職業、電話番号を明記の上、〒104-8007 日刊ゲンダイ「ゲンダイ X本プレゼント⑪係」まで。4月28日消印有効。当選者の発表は賞品の発送をもって代えます。

★先週のX本はコレでした

「貧困の発明」
タンクレード・ヴォワチュリエ著
早川書房 3000円+税

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    【広陵OB】今秋ドラフト候補が女子中学生への性犯罪容疑で逮捕…プロ、アマ球界への小さくない波紋

  2. 2

    NHK「昭和16年夏の敗戦」は見ごたえあり 今年は戦争特別番組が盛りだくさん

  3. 3

    永野芽郁が“濡れ場あり”韓流ドラマで「セクシー派女優転身、世界デビュー」の仰天情報

  4. 4

    有本香さんは「ロボット」 どんな話題でも時間通りに話をまとめてキッチリ終わらせる

  5. 5

    海星・陣内優翔は長崎県初の“完全男”だが…スカウトが「上位獲得」を渋るワケ

  1. 6

    中居正広氏は法廷バトルか、泣き寝入りか…「どちらも地獄」の“袋小路生活”と今後

  2. 7

    綾瀬はるか3年ぶり主演ドラマ「ひとりでしにたい」“不発”で迎えた曲がり角…女優として今後どうする?

  3. 8

    中山美穂「香典トラブル」で図らずも露呈した「妹・忍」をめぐる“芸能界のドンの圧力”

  4. 9

    長崎を熱狂させた海星・酒井圭一さんが当時を語る…プロ引退後はスカウトとして大谷翔平を担当

  5. 10

    安藤サクラ「柄本佑が初めて交際した人」に驚きの声…“遊び人の父”奥田瑛二を持つ娘の苦悩