「協同労働がつくる新しい社会」永戸祐三著/旬報社(選者:佐高信)

公開日: 更新日:

今こそ顧みられるべき「共生の思想」

「協同労働がつくる新しい社会」永戸祐三著

 もう一度会いたかった。6月13日に初めて著者と会ったその対話はユーチューブで流れる「佐高信の隠し味」で見られるが、2歳下の永戸は7月に急逝してしまった。

 中央大学の夜間部時代は学生運動に熱中し、全日本自由労働組合(全日自労)の本部に書記で入り、失業対策事業として始まった「ニコヨン」の労働組合運動を進める。この組合の機関紙は「じかたび(地下足袋)」だった。

「全日自労は共産党とされていたが、現場には創価学会員がいちばん多いように感じた。社会党系の人も自民党系の人もかなりいた。被差別部落の人、朝鮮人などのほか、ヤクザも多く、山口組など現役幹部が委員長をつとめている県本部も2つあった。ありとあらゆる底辺層の人、その周囲のありとあらゆる人間がいる。言葉はおかしいが、“人種のるつぼ”と感じた」

 永戸がそう回顧する人たちの間で、彼は「なぜかすぐ溶け込み、どこでも人気者になった」という。その語り口に接すれば、さもありなんと思うだろう。

 失業対策事業が打ち切られた後、全日自労は自治体からの清掃事業を請け負って、いわば働く者が主人公の運動を進める。その過程で永戸は「経営は怖い」ことも実感した。

 トイレ掃除のやり方を永戸に教えてくれた女性は、この仕事に誇りをもっていて、こう言った。

「男性の小便器の場合は菊座の後ろに尿石がくっつく。洋式だと、座る台ののり面につく。そのことを知っていても、隠れているところだから、サボってやらない。それを私たちはちゃんとやってる」

 内橋克人の「共生の大地」(岩波新書)に永戸たちの「労働者協同組合」が取り上げられている。

「労働者自身が出資し、管理し、運営し、社会に役立つ事業をおこなうという労働をテーマにした協同組合」であり、そこで働く労働者は「もはや雇用労働者でもなく、賃金労働者でもない」。

 資本が労働を雇うのでなく、労働者協同組合はこれを逆転させて、労働が資本を雇うのである。

 弱肉強食の原始的な新自由主義がはびこり、何とかファーストというジャングルのような自由が横行しているいまこそ、永戸の実践したこの共生の思想が顧みられるべきだろう。 ★★★

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  2. 2

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  3. 3

    「おまえもついて来い」星野監督は左手首骨折の俺を日本シリーズに同行させてくれた

  4. 4

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  5. 5

    巨人大ピンチ! 有原航平争奪戦は苦戦必至で投手補強「全敗」危機

  1. 6

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  2. 7

    衝撃の新事実!「公文書に佐川氏のメールはない」と財務省が赤木雅子さんに説明

  3. 8

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  4. 9

    高市首相が漫画セリフ引用し《いいから黙って全部俺に投資しろ!》 金融会合での“進撃のサナエ”に海外ドン引き

  5. 10

    日本ハムはシブチン球団から完全脱却!エスコン移転でカネも勝利もフトコロに…契約更改は大盤振る舞い連発