【宗教】欧州世界を覆う反ユダヤ主義の起源

公開日: 更新日:

 旧約聖書がユダヤ教およびキリスト教の正典であることは周知だ。ことにユダヤ教徒にとっては自分たち民族の精神的な基盤とされている。ところが、その聖書の中でもっとも崇敬される指導者が、ユダヤ人ではなくエジプト人だったとしたら?

 一見、荒唐無稽に思えるかもしれないが、実はヨーロッパ世界においては、古来この説が脈々と語り継がれてきたのである。本書は、この説がどのようにして生まれ、それが人々の記憶にどう受け継がれてきたのかを明らかにしたもの。といって、いわゆるトンデモ本ではなく、極めて学術的な研究書である。

 著者が着目するのは紀元前14世紀、多神教を旨とした古代エジプト王朝に突然出現した一神教。この一神教革命は短期のうちについえるのだが、その精神はユダヤ教、キリスト教、イスラム教へ継承され、排他的な一神教が確立される。またヨーロッパ世界を覆う反ユダヤ主義の起源ともなっている……。著者はこうした系譜を、文献史学ではなく記憶史というユニークな方法で論述していく。知的興奮に満ちた書。

★先週のX本はコレでした
「絞首人」
シャーリイ・ジャクスン著
文遊社 1800円+税

【連載】書名のない書評「ゲンダイX本」

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人がソフトB自由契約・有原航平に「3年20億円規模」の破格条件を準備 満を持しての交渉乗り出しへ

  2. 2

    長瀬智也が国分太一の会見めぐりSNSに“意味深”投稿連発…芸能界への未練と役者復帰の“匂わせ”

  3. 3

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  4. 4

    元TOKIO松岡昌宏に「STARTO退所→独立」報道も…1人残されたリーダー城島茂の人望が話題になるワケ

  5. 5

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  1. 6

    西武にとってエース今井達也の放出は「厄介払い」の側面も…損得勘定的にも今オフが“売り時”だった

  2. 7

    立花孝志容疑者を追送検した兵庫県警の本気度 被害者ドンマッツ氏が振り返る「私人逮捕」の一部始終

  3. 8

    日吉マムシダニに轟いた錦織圭への歓声とタメ息…日本テニス協会はこれを新たな出発点にしてほしい

  4. 9

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  5. 10

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…