「黒いイギリス人の歴史 忘れられた2000年」平田雅博著
「黒いイギリス人の歴史 忘れられた2000年」平田雅博著
2020年、英国王の次男ヘンリー王子と妻のメーガンは王室を離脱。その背景のひとつに白人の父と黒人の母を両親とするメーガンの人種問題があったとされる。また23年には、英王室と奴隷制度の関わりの研究に初めて王室が支持を表明したというニュースが流れた。アメリカと比べて、イギリスにおける黒人史が取り上げられることは少なかった。本書は、これまでの「白いイギリス人」の歴史に対して、「黒いイギリス人=黒人、ないし非白人の人種的起源を持つイギリス人」の古代から現代に至るまでの歴史を描いたもの。
白いイギリス人を代表するアングロサクソン人がイギリス諸島にやって来たのは5世紀だが、黒いイギリス人(アフリカ人)がローマ帝国治下のブリタニアにやって来たのはそれより早く2~3世紀ごろ。以降、数は少ないものの黒人たちは家内労働などに従事する社会の下層に位置していた。しかしエリザベス朝になると黒人たちの追放令が出されるなど、差別的な待遇が表面的になる。17世紀に入ると、西アフリカ、ヨーロッパ、西インド諸島を結ぶ奴隷貿易が興隆するが、イギリスは当初こそ出遅れていたものの徐々に趨勢を強め莫大な権益を手にする。そこで中心になったのが王立会社で、王室が奴隷貿易に大きく関わっていたのだ。一方で奴隷制廃止へといち早く舵を切ったのもイギリスで、そこには女性運動家が大きく寄与したことは特筆すべきだ。
第2次世界大戦後の1948年、492人の西インド諸島人を乗せたウインドラッシュ号がロンドンに上陸し、この受け入れを巡って議論百出するが、以降西インド諸島からの移民が急増、イギリスが多民族国家へと変貌していく分岐点となる。この問題は現在世界各地で問題となっている移民政策とも関わっている。その意味でも、本書はエスニックマイノリティーの問題を考える上で、良き水先案内となるだろう。 〈狸〉
(講談社 2090円)